田代尚機のチャイナ・リサーチ

中国人民銀行が人民元安誘導へ 5年ぶりの安値水準

中国人民銀行

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人民元が再び、安値水準を切り下げてきた。5月30日の人民元対ドル・基準値は前日と比べ294ベーシスポイント人民元安の6.5784となり、2011年2月以来の安値水準を記録した。結局、この日の終値は6.5607で引けており、若干人民元高に戻している。

一方、オフショア人民元レートも人民元安方向に振れてはいるが、30日の終値は6.5893である。終値ベースでは、オフショアの方が0.4%ほど人民元安方向に振れているが小幅な水準である。人民元に関して国際金融市場は冷静さを保っている。

昨年末から今年の初旬にかけて、本土市場では人民元が急落した。多くの海外投機家はこの時、自由に取引のできるオフショア人民元市場において売りを仕掛けた。折からの株安も加わったことで、国際金融市場では人民元の暴落を声高に叫ぶ関係者が急増した。しかし、その後は逆に人民元高が進んだことで、投機はあえなく失敗に終わっている。

再び人民安が進んでいるわけだが、今後の推移はどうなるのだろうか? 人民元安はこのまま続くのだろうか?

それを考えるためには、まず、前回の売り仕掛けは、なぜ失敗したかを整理しておく必要があるだろう。

要因ははっきりしている。いつものことではあるが、海外の投機家たちは国家(中国人民銀行など)の力を過小評価したからである。

為替制度は変動相場制に近づいているはずだといった見込みが間違っていた。中国人民銀行は為替市場において介入を行っているが、これは対外的なパフォーマンスに近い。中国人民銀行は方針として為替取引の自由化を口にするが、人民元基準値によるコントロールを止めるなどとは一言も言っていない。

中国の為替制度は管理フロート制と称されるものである。中国人民銀行が毎朝、立会前に発表する基準値を中心として上下2%の範囲内でのみ自由な取引が行われる。もし、この基準値がマーケットを後追いし、市場のボラティリティ(変動率)が常に上下2%に収まるならば、自由な取引と言える。ただし、基準値が意図的に高く設定されたり、安く設定されたりすれば、市場参加者はそれに従わざるを得ない。後者の観点から言えば、為替をコントロールしているのは基準値を決める中国人民銀行だということになる。

基準値の決め方は中国人民銀行ホームページに詳しく書かれている。「基準値の算定に当たり、立会前に市場参加者である銀行などの金融機関(インターバンク外貨市場におけるマーケットメーカー)にヒアリングを行い、得られたデータ(上下異常値を除く)を参考にするが、それぞれの取引量、価格などのデータを見ながら総合的に決める」としている。

マーケットメーカーにヒアリングしている点で、前日の終値が反映されると言えなくもない。その点を強調すれば、市場の動きに近いと言えなくもない。しかし、総合的に決めると言っており、過去の動きをみる限り、市場の動きをリードしていることが多いのも事実である。

さらに、上記の説明とは別に、国際通貨のバスケットを参考にしているといまだに中国人民銀行幹部は言っている。ならば、基準値は最終的にはブラックボックスで決まると言わざるを得ない。結果として、人民元対ドルレートは1月7日を安値としてその後は人民元高が進み、5月3日には6.4565を記録している。

海外の投機家たちはもう一つ大きな見込み違いをしていた。国家が資金移動をコントロールできずに、資金流出が続くと考えていたが、実際にはそうならなかった。

外貨準備は2月末こそ286億ドル減少したが、3月末は103億ドル増加、4月末は71億ドル増加した。4月末の外貨準備は3兆2197億ドルで、世界第2位である日本の1兆2481億ドル(2016年1月末)と比べると約2.6倍も多い。

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