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FXブームを加速させる、文字通りの「てこ」となったレバレッジ。100倍、200倍など、FX業者間の引き上げ競争は過熱し、なかには600倍超を掲げる業者まで出現した。
その動きに「待った」をかけたのが、金融庁が打ち出した「レバレッジ規制」である。2年以内に上限25倍までとなったことで、個人投資家のトレード方法、業者選びにどんな影響が出てくるのか。レバレッジ規制で揺れるFX業界のホンネと最新事情を業界の事情に詳しい金融ライターの鈴木雅光氏がリポートする。
1. 信託保全の義務化
業者が顧客から預かった証拠金については、実現損益、評価損益、スワップ損益を反映させたうえで、全額を信託銀行に信託保全させる。
●8月1日より実施中(既存業者には6か月の移行期間)
2. 勧誘・説明態勢について
相場急変時など、ロスカットが上手く機能せずに証拠金以上の損失が生じる恐れがあること、スリッページ(※売買注文を出した価格より不利なレートで 約定することで、相場が大きく動いたときに発生しやすい)によって提示された手数料、スプレッド以上のコストがかかるケースがあることについて、業者は顧客に明示する。
●8月1日より実施中(既存業者には6か月の移行期間)
3. レバレッジ規制
レバレッジの上限を25倍までに規制する。ただし内閣府令施行後、1年間は移行期間としてレバレッジの規制は行なわず、施行1年後から、段階的に実施する。
●10年夏に上限50倍、11年夏に上限25倍とする方針
「これまでのやり方は、もう通用しなくなる」-----。
FXのレバレッジ規制問題について、FX業者や個人投資家の間からは、いまもって不安の声が聞かれている。
レバレッジ規制は当初、「今夏から最大25倍で実施」と報道されたが、最終的な着地点は、改正内閣府令の公布後1年をメドに50倍、さらにその1年後に25倍まで制限されるということになった。実施まで1年の猶予期間が与えられたのは、恐らく、FX業界や個人投資家への影響の大きさを考慮してのものだろう。
実際、個人投資家の反応は敏感である。
矢野経済研究所がFX専門サイト「FOREX PRESS」と共同で行なったアンケート調査によると、2665名の調査対象者のうち90.5%がレバレッジ20?30倍への規制に反対を表明、仮にそこまで規制された場合は、21.7%がFXをやめるという。
特に、高いレバレッジを利用して、「スキャルピング」と呼ばれる超短期トレードを行なっている投資家への影響は大きい。
FXで生計を立てているある専業トレーダーは、「レバレッジを何倍に設定するのかという問題は、個人の資金量、資金の性質、目標リターンなど、極めて個別的な事情によるもの。個人の資金管理法を無視して、金融庁が一律に規制をかけるのはおかしい」といい、本誌今号に登場している個人投資家、秋山仁彦氏も、「今のところレバレッジ400倍でトレードしているが、規制が実施されたら、投資戦略そのものを、大きく見直す必要がある」と語る。
恐らく、そこまでレバレッジを高くして取引している個人投資家は、FX人口全体から見れば一部だと思うが、レバレッジ規制が実施されれば、投資家のFX離れが進むだろう。高速回転売買を行なっている一部個人投資家にとっては、レバレッジ倍率が規制されることで、わずかな値幅を取りにいく取引が難しくなるからだ。
小額資金で取引できるというFXのメリットも損なわれる。レバレッジ100倍の場合、10万円の必要証拠金で1000万円の取引が可能になるが、レバレッジ25倍で1000万円の取引をしようと思ったら、必要証拠金として40万円を預ける必要がある。取引のハードルは上がらざるを得ない。
個人投資家にとっては、これから1年、業者選びが極めて重要になってくるのも間違いない。高レバレッジの取引を志向する個人投資家のなかには、海外のFX業者を使おうという動きも活発になってきた。海外の業者であれば、日本の法規制は及ばない。もちろんレバレッジ規制とも無縁だ。
ただ、海外のFX業者を選ぶ際は、慎重にも慎重を期す必要がある。相手が詐欺業者でないという保証はどこにもないし、自分の目で確認しようにも、本支店が海外にあるのでは、なかなか難しい。
投資家保護のための施策が、逆にリスキーな取引を助長するのは本末転倒になりかねず、金融庁も海外業者には目を光らせている。登録業者でもないのに、日本国内で営業活動をしている場合は、金融商品販売法違反をいうことで、厳正に対処するという。
金融庁市場課は、今回のレバレッジ規制の狙いについて、次のように説明する。「規制に踏み切った理由のひとつは、投資家保護だ。ロスカット機能は万全ではなく、仮に機能せずに投資家が損失を被った場合でも、業者は免責される。また、過去に破綻したFX業者のなかには、高レバレッジの顧客注文を受けたものの、そのカバーを受け入れてもらえずに破綻したケースもあった。FXが他の投資商品に比べてレバレッジが極めて高く、過当投機になっていることも、規制強化の理由のひとつだ」
レバレッジ規制が実施された結果、一番のダメージを受けるのは、恐らくFX業者だろう。それも、手数料やスプレッドなどのコストを最小化する一方、数百倍のレバレッジを提供してきたような業者ほど、窮地に追い込まれる。
現在、複数のFX業者は、レバレッジ規制の一部緩和を金融庁に求める方針で自主規制の策定に動き出している。
あるFX業者幹部は、「ロスカットルールを厳格化し、値動きが激しい時でも、顧客の証拠金以上の損失が発生しないようにする。それによって、せめてレバレッジ50倍までは認めてもらいたい」という。
とはいえ、一方で、「『ハイレバ・低スプリッド』を売り物にしている業者の退出が増えれば、FXの健全化が進む」と考えるFX業者もある。FXを長期の資産形成手段と位置付けようとする業者ほど、こうした傾向が強い。FX業界も一枚岩ではないのだ。

前述したように、レバレッジ規制が実施されれば、今まで高速回転売買を行なっていた投資家の回転率は低下し、業者の収益力も大きく減退する。
そのうえ、8月からは信託保全(※FX業者が、顧客の預かり資産を自社の資産と分別管理するため、信託銀行 の信託口座にて管理すること。たとえ業者が倒産しても、預かり金は返還される仕組み)が義務化されるため、FX業者は顧客から預かる資産額が増えるほど、顧客資産の信託保全絡みの手数料負担が重くなる。収入が減少する一方でコスト負担が重くなるのだから、収益力が悪化するのは当然のことだ。
現在、FXを扱っている業者の数は110社を超えているが、こうした状況に耐えられるところが、果たして何社あるのか。これからレバレッジ規制が最終段階を迎える2年後までに、FX業界の整理・淘汰が一気に加速するだろう。
すでにその兆候は表れており、5月以降の2か月間で、3社がFXサービスを打ち切り、4社が営業譲渡を行なった。FX業者のなかには、廃業を前提に、あるいは短期的な利益追求を目的に、無茶な営業を行なうところも出てくるかも知れない。
金融先物取引業協会のFX部会では、レバレッジ規制が実施されるまでの1年間の猶予期間中、レバレッジ倍率を引き上げる行為は自粛するよう、各業者に通達を出した。とはいえ、1年限りに廃業することを前提に目先の利益確保を狙っている「やり逃げ業者」に対し、こうした通達がどれほどの強制力を持つかは疑問だ。
FXが登場して10年。この間、倍々ゲームで市場は拡大してきたが、初めての大きな試練を迎えている。
「マネーポスト」2009年9月号に掲載

