*09:00JST 改革進まぬ豪中銀【フィスコ・コラム】
豪準備銀行(中銀)の改革に遅れが生じています。与党が金融政策に対する影響力を強めようとしているとして、野党は猛反対。現時点で豪ドル相場への直接的な影響は軽微であるものの、中銀が信頼を失えば通貨安につながりかねず、議論の行方が注目されます。
チャーマーズ豪財務相は9月10日、豪中銀の改革案が与野党対立により頓挫する可能性を明らかにしました。豪中銀改革の議論は2022年7月に開始され、23年春先に取りまとめられた改革案は審議を経て24年7月1日に施行の予定でした。豪中銀に現状認められている国内経済の繁栄から福祉の拡充に至る幅広い権限を、物価の安定と完全雇用に絞り込む方針とするなど、簡素化される項目もあります。
改革案にでは、中銀の構成メンバーについて政策委員9人のうち外部の6人がビジネス寄りと指摘され、代わりに学識経験者を増やしたい意向が示されました。会合の回数に関しては、現在の年11回から8回に減らす方向です。一方、金融政策への対外的な言及は主に総裁が担っていますが、他のメンバーが発言する機会もありそうです。総裁の権限を弱める反面、他の主要中銀のように透明性が高まるかもしれません。
豪中銀の改革論議が高まった背景は、特にコロナ危機後の引き締め局面で政策運営が不安定化したこと。当時は中銀の政策決定と市場の思惑が食い違う場面も多発しました。豪政府は中銀組織運営を問題視し、改革案の作成に着手。それに対し、野党・保守党は与党・労働党が金融政策への影響力を強める狙いがあると批判。労働党は政策決定に対する政府の拒否権を撤廃する妥協案を提示したものの、物別れに終わっています。
もっとも、豪中銀の改革論議で与野党が対立しても、豪ドル相場に特に目立った反応は見受けられません。現在のところ改革自体が直接的に反映されておらず、市場が冷静に見守っているためです。目下のところ国内インフレ率は高水準ながら安定し、中銀は引き締め的な政策方針を崩していません。米連邦準備制度理事会(FRB)の利下げサイクル入りによるドル売りに、豪ドルは支えられている面もあります。
しかし、長期的に中銀の信頼性が損なわれるような事態を回避しなければ、豪ドルの安定性が揺るがしかねません。トルコで以前、中銀が大統領からの度重なる利下げ圧力を受け、中立性を無視した政策運営により歴史的なリラ安に落ちったことは教訓となるでしょうか。
(吉池 威)
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