詐欺犯は周囲に人がいない場所にターゲットを誘導。以後のやりとりは自家用車の中でスマホを通じて行われた(写真:イメージマート)
被害者に電話をかけるなどして対面することなく信頼させ、現金を騙し取る行為は「特殊詐欺」と呼ばれる。警察庁によると、2024年の特殊詐欺の被害額は721億5000万円、前年比59.4%増で過去最悪を更新している。被害“激増”の背景には手口の巧妙化が挙げられる。特に近年は警察官や弁護士などを名乗る人物が次々に登場し、巧妙なストーリーを仕立てて金銭を騙し取る“劇場型”の手口が横行している。
詐欺犯のターゲットは高齢者だけではない。40〜50代の現役世代が騙され、インターネットバンキングやATMを通じて詐欺犯にお金を振り込むケースが実際にあるが、これまでこうした詐欺の手口の詳細が明かされることは少なかった。シリーズ〈ルポ「特殊詐欺」の最新手口〉、フリーライターの池田道大氏が、実際に200万円を振り込んでしまった被害者の証言を紹介する——。【全4回の第1回】
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昨年10月末、平日の午前8時過ぎ。出勤前だった都内在住の会社員・小倉和秀さん(40代・仮名)のスマホに090から始まる電話番号から着信があった。知らない番号だが、仕事関係の連絡かもしれない。咄嗟に電話に出ると、相手はいきなりこう切り出した。
「もしもし、警視庁のオニヅカと申します。小倉さんですね。あなた、楽天銀行のキャッシュカードを持っていますね」
小倉さんは楽天銀行のキャッシュカードを保有していなかったので、「いえ、知らないです」と答えた。すると相手はこう話を続けた。
「え、知らないですか? 1978年○月○日生まれの小倉和秀さんですよね。ここにあなたの名前が入ったカードがあるんです。本当に心当たりはないですか」
強い調子で言われて状況を理解できないまま「心当たりがないです」と答えると、オニヅカはさらにまくし立ててきた。
「ではナカノシゲミツのことは知っていますか。知り合いじゃないんですか。ナカノシゲミツという男が、マネーロンダリングの詐欺にあなたのカードを使っていたんです。このカードが宮崎県で押収されたのですが、非常に大規模な事件で、我々はこのカードの持ち主である小倉和秀さんが詐欺事件の重要人物であるとみて捜査をしています。
本当にナカノシゲミツを知らないのですか。……おかしいですね。我々はあなたを詐欺グループの容疑者の1人として見ています。詳しく話を聞きたいのですが、今から1時間から1時間半ほど話をする時間はありますか」
出社する予定だった小倉さんが「今でないとダメですか」と尋ねると、オニヅカは、「非常に重要なことなのでこちらを優先してください。今から1時間から1時間半ほど作ってください」と要求した。さらに「電話をつないだまま、絶対に他の人に聞かれない場所で話してください。人に聞かれない場所で話せますか」と問いかけてきた。