*09:00JST 世襲の首相に激辛評価【フィスコ・コラム】
タイのタクシン元首相の次女で、昨年就任したペートータン首相への風当たりが強まっています。カンボジア前首相との電話会談漏洩をきっかけに支持率は10%を割り込み、政局が流動化。政治が経済の足かせとなり、同国市場は波乱の相場展開になっています。
ペートータン首相は国境問題で対立するカンボジアのフン・セン前首相と6月に電話会談し、その内容が流出。ペートンタン氏はタイ国軍司令官を批判し、フン・セン氏に媚びる態度を取ったとして、国内で大きな反発を招いています。憲法裁判所は上院議員に申し立てを受理し、判決言い渡しまでの期間、首相としての職務停止を命じました。タイの政治情勢は大きく動き出し、市場も揺れ動く事態です。
ペートータン氏は、2000年代初頭に実業家から首相に上り詰めた国民的英雄、タクシン元首相の次女で、いわば“シナワトラ王朝”の後継者。しかし、本人に政治経験は乏しく、政策実行力や発信力への疑念が強まっていました。与党・タイ貢献党を支えるタイ名誉党が連立から離脱し、政権運営も行き詰まっています。世襲であることがかえって反発を招き、世論を敵に回した格好です。
金融市場は複雑な反応を示しています。株式市場では、代表的なSET指数が年初から一時3割も下げ、東南アジア主要市場の中でも際立った低迷が目立ちました。観光や輸出など一部の経済指標は底堅く株価は小幅に戻したものの、政策の不確実性を嫌気した海外投資家の売りは継続しているもよう。企業業績自体が悪化しているわけではないにもかかわらず、政局が株式市場に冷や水を浴びせているもようです。
債券は安全資産として選好され、長期金利は2%台に落ち込んでいます。景気下振れと利下げ観測を受け、国内外の投資資金が国債に流入し、債券価格は堅調地合いに。一方、外為市場では本来なら金利安・バーツ安に傾く局面ですが、実際には底堅さを維持。米利下げ観測によるドル安の進行や、タイの経常黒字、観光収入の回復に加え、外国人投資家の株式から債券へのシフトがバーツの需給を引き締めています。
もっとも、現在の債券高は、政治の混乱が一時的であり、中銀の信頼が保たれていることが前提です。暫定政権の長期化や政策の停滞が続けば、中銀の独立性や財政運営への不信が広がり、債券は安全資産とは見なされなくなります。その場合、債券売りと金利急騰が現実味を帯びてきます。市場の安定には、政権の信頼回復と政策の継続性が欠かせません。世襲、政局、債券安といった問題は日本だけではありません。
(吉池 威)
※あくまでも筆者の個人的な見解であり、弊社の見解を代表するものではありません。
<ST>