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【注目トピックス 経済総合】大手砂糖商社からの大量注文の実態は商品ファンドの運用の為であった。今後も注文は続くのか。

2017年8月9日 11:00

■大崎常務との会食

その夜、清明と宍戸は大崎常務に夕食に誘われた。人形町の裏通りにある懐石料理屋で、東京でも珍しい鮪鍋を食べさせる店である。
座敷に通されて乾杯した後、まず大崎常務が今日のABスターン社の初商いについて聞いた。
「社長から聞いたが、期近限月にも大きな玉(ぎょく)が出たことを気にしているようだな。だが問題は残玉の大きさだ。かれらはこれからも今日ぐらいの枚数で売買してくると思うか?」
先付けの焼き物を食べながら、清明は頷いた。
「分かりません。しかし欧米のファンドは今、大きな運用資金を抱えていますから何よりも流動性のある市場を求めているはずです。ニューヨークに次いで出来高が大きくなった東京粗糖に目をつけたのもそのためでしょう。それなりの玉は出してくると思います。」
その清明の言葉に宍戸が驚いて聞き直した。
「えっ、ファンドですか?ABスターン社は砂糖商社ですよね。受け渡しを前提とした取引ではなかったのですか?」
清明は、そういえば宍戸にまだ、今回のABスターン社の口座が実はかれらが買収した大手商品ファンド会社のダミーだと伝えていなかったことを思い出した。
「実はそうなんです。ABスターン社が買収したペッパーファンドが今回のわれわれの本当の顧客です」と宍戸に答えてから、改めて大崎に向き直った。
「欧米の商品ファンドは今、運用総額では50億ドル(約6500億円)から70億ドル(約9100億円)規模にまで膨らんでいます。ペッパーファンドは、その中でも最大規模のファンドです。シカゴでも今年の作付時期に大豆やとうもろこしを一度に400枚、500枚売買して話題になっていました。現在のアメリカの証拠金は大豆でも1枚2000ドル(約26万円)。原油などは7000ドル(約91万円)ぐらいになりますから、東京粗糖の1枚2万5000円(会員の委託証拠金。個人投資家の委託証拠金は5万円)くらいは、かれらにとっては小さなものでしょう。100枚単位の注文が当たり前と考えておいた方がよいのではないでしょうか。まぁ、僕も今日は驚かされましたが、個人投資家とは規模が違うことだけは理解しておかないといけないと思いなおしたところです」
商品ファンドは1970年代後半、米国で運用が始められた。投資家から集めた資金を商品先物市場で運用し、その利益を投資家に還元する。いわば証券投資信託の商品版である。
1987年のブラックマンデーで暴落する株を尻目に商品ファンドだけが多額の利益をたたき出したことから、一般投資家からも「分散投資」の対象の一つとしてがぜん注目されるようになった。米国ではすでに商品ファンドを運用対象に加えた証券会社の公募型ファンドも募集されており、投資家のすそ野も広がっている。
日本でも、ここ数ヶ月、五井物産、五陵商事といった大商社が試験的に欧米の商品ファンドを利用し始めていることが新聞に取り上げられ、業界でも話題になりつつある。
また米国の先物取引所では、出来高の少なくとも10%は商品ファンドが占めるともいわれており、それを知った日本の取引所や監督官庁が、国内市場での商品ファンド組成と運用を認めるための新たな制度導入を真剣に考え始めているところでもあった。
日本の証券市場の投資家数は約2千万人。そのうち株を持っているのは200万人。そして頻繁に株を売買しているのはその中でもわずか20万人程度だ。つまり残りの1800万人は国債や投資信託など、比較的安定した証券投資を手掛けていることになる。
それに比べて、商品先物市場の投資家数はわずか7万人だが、大半が積極的に売買するタイプだとされている。そのため口の悪い弁護士や業界人の中には「商品先物市場は鉄火場と同じ」という人もいる。
取引所も監督官庁も、そうした世間の評判を変えるためにも商品ファンドを導入し、参加者のすそ野を広げたいと考えているのだろう。
NEXT:8月15日火曜日更新
商品ファンドと当業者、そして個人投資家

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