バブルの王様 アイチ森下安道伝
2022年1月22日 19:00 週刊ポスト
マムシの森下が仕手筋の池田と組んで徳陽銀行の乗っ取りを画策しているのではないか──。兜町が騒然となったのは無理もなかった。おまけに株の買い占めはそれだけではない。
この年から翌1987年にかけて判明したアイチによる銀行株の取得は地銀28行、第二地銀7行の計35行におよんだ。これをいち早く報じた『週刊現代』(1987年11月7日号)の取材に対し、会長の森下に代わり、社長に就いていた市橋利明がこう答えている。
「会社の将来を考えるとき、資産として、堅実な銀行株を保有していたいということだ。値ごろな株を今年(1987年)の春ぐらいから買い集めた。資産株だから、長期で持たないと意味がない(以下略)」
京大法学部を卒業して旧大蔵省入りした市橋は、国際興業の小佐野賢治が率いた「国民相互銀行」に天下り、さらに1986年にアイチにヘッドハンティングされたばかりだった。森下が小佐野に頼み込んでアイチの社長に迎えたといわれる。
もっとも市橋の言葉は額面通りには受け取れない。バブル崩壊の前夜、池田は謎の失踪を遂げた。するとコスモポリタンの金主である森下は、池田の残務処理にあたった許永中や伊藤寿永光と深くかかわるようになっていく。やがて許は京都銀行株を買い占め、アイチの森下がそれを後ろから支えた。
森下がなぜ銀行株にこだわったのか。それは、銀行そのものを持つことが悲願だったからにほかならない。本人の心のうちに小佐野賢治や長田庄一への憧れがあったからだと言い換えてもいい。
そしてますます事業の翼を広げた森下は、多くの経済事件に関与することになる。
(第一部了。第二部に続く)
【プロフィール】
森功(もり・いさお)/ノンフィクション作家。1961年福岡県生まれ。岡山大学文学部卒。新潮社勤務などを経て2003年よりフリーに。2018年、『悪だくみ─「加計学園」の悲願を叶えた総理の欺瞞』で大宅壮一ノンフィクション賞受賞。近著に『菅義偉の正体』『墜落「官邸一強支配」はなぜ崩れたのか』など。
※週刊ポスト2022年1月28日号
当サイトに記載されている内容はあくまでも投資の参考にしていただくためのものであり、実際の投資にあたっては読者ご自身の判断と責任において行って下さいますよう、お願い致します。 当サイトの掲載情報は細心の注意を払っておりますが、記載される全ての情報の正確性を保証するものではありません。万が一、トラブル等の損失が被っても損害等の保証は一切行っておりませんので、予めご了承下さい。
当サイトに記載されている内容はあくまでも投資の参考にしていただくためのものであり、実際の投資にあたっては読者ご自身の判断と責任において行って下さいますよう、お願い致します。 当サイトの掲載情報は細心の注意を払っておりますが、記載される全ての情報の正確性を保証するものではありません。万が一、トラブル等の損失が被っても損害等の保証は一切行っておりませんので、予めご了承下さい。