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2022年4月19日 19:00 週刊ポスト
もっとも瀧澤が五代目山口組組長を目前にした渡辺のために探し求めていた肝心の加山又造の原画は、なかなか見つからなかったようだ。アイチの幹部社員が明かした。
「たしか日本洋画商協同組合主催のオークションの下見会が、麹町のダイヤモンドホテルで開かれるというので、そこに瀧澤総長をお連れした覚えがあります。ヤクザの名前ではオークションで絵を競り落とせません。なので、アイチで買って手数料をもらって渡そうとしたわけです。それでホテルの会場前で待ち合わせしていると、瀧澤総長が白いマスクに真っ黒いサングラスをかけてベンツから降りてきた。子分衆に『おまえらはここで待ってろ』と言い、車の中で待機させていました。だけど、本人がいかにも怪しい。だからサングラスとマスクを外し、帽子だけをかぶってもらって下見会場に入りました」
結成65年の歴史ある日本洋画商協同組合は銀座にギャラリーを構え、洋画の出版・編纂のほか、オークションも主催してきた。だが、暴力団組長は本番のオークションに参加できない。そのため、あらかじめ会員の画廊向けに催される下見会で目当ての加山の絵画を探そうとしたわけだ。瀧澤を案内したアイチの幹部社員が、その光景を思い起こしてくれた。
「下見会にお連れしたとき、そのなかにたしかに加山又造の絵が20点近くありました。絵のサイズが小さすぎたり、大きすぎたり、雑な描き方だったり、いろいろありました。ほれぼれする加山作品もあった。だけど、シャム猫の原画とは違ったようでした。だから、結局あきらめたのではないでしょうか」
瀧澤が渡辺に絵画をプレゼントできたかどうか、それは森下に聞いても、わからないという。
貸金業からスタートし、ゴルフ場開発、さらには絵画ビジネスまで手を広げた森下の交友相手は、むろん暴力団だけではない。森下はむしろ絵画ビジネスのおかげで、他のバブル紳士にない独特な人的コネクションを築いた。
森下は1989(平成元)年9月、美術界における2大オークションの一角である英「クリスティーズ」の大株主として登場し、世界を驚かせた。豪州の富豪、ロバート・ホームズアコートの株を3300万ポンド(76億円)で買い、総株式の7.3%を占める第2位の株主に躍り出る。事実上、個人の筆頭株主といわれた。
クリスティーズは1766年12月、美術商ジェームズ・クリスティーがロンドンに設立したオークション会社だ。18世紀のフランス革命の結果、パリに代わりロンドンが世界の美術品貿易の中心となり、英サザビーズとともに世界中の美術品の競売を手掛けるようになる。1973年にロンドン証券取引所に株式を上場し、その後、オーナーがたびたび入れ替わった。その一人が日本の森下だったのである。
ちなみにもう一つの大手サザビーズはクリスティーズに先立って1744年3月11日、ロンドンで創業した。もとは英ジョン・スタンリー卿の蔵書を売却するためのオークションだ。
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