住宅ローン、繰り上げ返済すべきか否かの判断法
まもなく夏のボーナスだ。その使い途として「住宅ローンの繰り上げ返済」を考えている人も多いだろう。でも、それは本当に正しいのか? 手元で資産運用するほうが有利になる可能性もある。ファイナンシャル・プランナーの清水斐氏が、「どちらが得なのか」の考え方を解説する。
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住宅ローンが残っている状態で、ボーナスなどによって100万円単位の余裕資金ができた──そんな時、多くの方はローンの「繰り上げ返済」を検討すると思います。一方で、繰り上げ返済せずに手元で資産運用したほうが有利、という議論もあります。実際にはどちらがいいのでしょうか。
まず、それぞれのメリットとデメリットをおさらいしましょう。
- ●繰り上げ返済
- 【メリット】返済期間の短縮、または毎月の返済額の圧縮によって、総返済額を少なくできる。
- 【デメリット】返済した資金は、突然の病気や介護などで入り用になっても取り戻せない。住宅ローン控除による減税効果が小さくなることもある。
- ●資産運用
- 【メリット】(繰り上げ返済で得られる返済額圧縮効果以上に)資産を増やすことができる可能性がある。
- 【デメリット】資産が減ってしまう可能性がある。住宅ローンの総返済額を圧縮する機会を逸する。
ファイナンシャル・プランナーである私が「繰り上げ返済すべきかどうか」という相談を受けた場合、2つの点をヒアリングします。
1つめは、返済に充てる資金は、今後教育費など他の使い途に利用する予定がないか。2つめは、借り入れ名義人(主に夫でしょう)にもしものことがあった場合に、その資金が手元になくても生活に困窮しないか、です。2つめについては、もしものことがあった場合には団体信用生命保険(いわゆる団信)によって住宅ローン残高は消えるので、繰り上げ返済の意味がなくなるからです。
また、「住宅ローン金利が2%以上の場合」「住宅ローンの残り返済期間が20年以上あって、変動金利の場合」は、繰り上げ返済ではなく「借り換え」を検討したほうが有利な場合があることもアドバイスしています。2018年4月時点での住宅ローン金利は、全期間固定でも2%未満の商品が多く、将来的に金利上昇の可能性がある変動金利より有利になるケースもあるからです。
「金利+0.5%」の利回りで資産運用できるか
では、「繰り上げ返済」と「手元で資産運用」を比べた際、どれくらいの利回りで運用できれば得と言えるのでしょうか。
試算してみたところ、ローンの残り期間にかかわらず、住宅ローン金利2%以内の場合なら、「金利+0.5%」の利回りで資産運用できれば、繰り上げ返済より有利という結果になりました。たとえば住宅ローン金利が1.5%なら、「利回り2.0%以上」で運用できればいいということです。
たとえば、「当初借り入れ額3000万円、ローンの残り期間10年、ローン金利1.5%」の状態で100万円の繰り上げ返済をすると、総返済額は約15万円減ります。
一方、この100万円を繰り上げ返済せず10年間運用したとすると、運用益を積み上げた額はどうなるでしょうか。利回り1.5%なら12万円強、2%なら約17万円、2.5%なら約22万円の運用益になります(すべて、20.315%の税引き後)。
もちろん運用にはリスクも伴いますから、10年平均して2%以上の利回りを出すことは誰でもできることではありません。それでも、すでにご自身で運用をしている方なら、今後どれくらいの利回りを出せそうかイメージができると思いますし、投資信託の積み立て分散投資でも2%の利回りを出すことは可能でしょう。
「住宅ローン=借金。借金は早く返したほうが気が楽」という考え方から、できるだけ繰り上げ返済をしようという人も少なくありません。ですが、繰り上げ返済にもデメリットはあります。自分の場合はどちらが有利か、検討してみることをお勧めします。
資産運用が未経験という方も、つみたてNISA(少額投資非課税制度)など初心者にも始めやすい仕組みができたので、それを2~3年試した上で、「繰り上げ返済するかどうか」を決めても遅くないでしょう。
◆しみず・あや/CFPR、1級FP技能士、住宅ローンアドバイザー、証券外務員I種。30歳でファイナンシャル・プランナーとして独立、長野・東京で活動中。主に30~40代の「普通のくらし」を求めている方への「自分がお客様の立場だったらどういう判断をするか」を軸にお金の持ち方・つかい方のアドバイスに力を入れている。ライフプラン作りから資産運用まで老後にわたる継続的なサポートすることを事業理念として活動している。HPはhttp://www.fp-saku.com/。
(*マネーポストWEB)