ドルひとり勝ちの背景 米国の図抜けたファンダメンタルズ
公開日:2018年5月9日 20:00
最終更新日:2020年2月26日
今年の為替相場を振り返ってみると、年初からドルは下落しましたが、このところリバウンドしてきています。
ドル円は113円前後でスタートしました。通商問題が激化するに伴いドル円は下げ足を強め、米政府が中国に対し500億ドル相当の制裁措置を発動した3月末には105円割れを示現しましたが、ドル安もそこまで。その後ドルは110円乗せへと急速にリバウンドしています。
ユーロドルは1.20前後でスタートしましたが、ECBの政策変更を先取りする形で1.25を少し越えたところまでドルは下落、しかし最近欧州の経済統計が悪化していることからユーロドルも根を崩し、現在1.18台まで下げています。
ドル円もユーロドルも、背景の理由は少し違いますが、ドル安が続くと見られていました。しかし、最近の動きを見るとドルひとり勝ちの様相を呈しています。当初はドルのリバウンドは一時的で、すぐにドル下落トレンドが続くという予想が多かったのですが、多くのアナリストにとって、現在のドルの強さは意外でしょう。
何が背景にあるのでしょうか
ドル円相場がリバウンドしたのは、例え貿易問題が激しくなろうと、日本は金利が実質的にゼロで、大きな成長も見込めない。よって、リターンを得るためにはどうしても資金を海外に出さなければならない、そういった理由が一番強そうです。
「貿易問題」VS「経済ファンダメンタルズ」は良好な経済ファンダメンタルズが勝ったということでしょう。
ユーロドルは少し違います。基本的にECBの政策変更を先取りする格好でユーロドルは買われてきたのですが、最近欧州の経済指標が悪化してきており(特にドイツ)、ついにユーロ上昇に経済がついてこられなくなって来たのではないか?という思惑があります。私自身、ドイツ経済はユーロドル1.60でも大丈夫と思っていたので、意外に早い失速に驚いています。
ドル上昇の理由が対円、対ユーロで少し違うのかもしれませんが、要するに「米経済が強すぎる」ということなのでしょう。
1980年代、為替市場を動かしたのは貿易収支でした。米国が赤字を垂れ流し、それをなんとか止めないと行けない、そうした考えがプラザ合意等につながりました。それが1990年台から2000年台になってくると、金利差が為替マーケットを動かすようになってきました。円キャリートレードという言葉が出てきたのも、1990年台後半です。貿易決済の資金より、機関投資家が動かす資金のほうが圧倒的に大きくなったので、金利の影響度が大きくなったのでしょう。
では、今はどうなのか。「シンギュラリティ」の時代、車や冷蔵庫といったような商品もIT化が進み、米西海岸にあるIT企業群によって我々の生活が一変する、従来の車メーカーが主導権を米IT企業に奪われてしまう、そうした瞬間が来ています。
車の電気自動車化や自動運転化が進むと、日本の車産業はとてつもない危機に面すると考えられていますが、事情はドイツも同じでしょう。米IT企業の圧倒的技術力がBMWやメルセデスと言った高級車メーカーの生殺与奪をもつ時代が来ています。このとき、ドル高ユーロ安になれば、米IT企業から独企業は主導権を奪うことができるのでしょうか。私にはそうは思えません。
かつて浜田宏一内閣官房参与は、日銀の金融緩和が足りなかったから円高になり、エルピーダメモリは破産したと言いました。製造業はそうした面は確かにあるでしょう。
しかし、円安になっていたら「一太郎」は「ワード」に勝っていたのでしょうか。1ドル50円でも200円でも、おそらく我々はワードで文章を書き、グーグルで検索します。どんな為替レートでも、米IT企業が我々の生活を塗り替えて行きます。その意味では、米国のドル高耐性は意外に強いのではないかと思います。
「貿易問題」はあっても、「経済のファンダメンタルズ」がドルをさらに押し上げるのではないかと思っています。
【PROFILE】志摩力男(しま・りきお):慶応大学経済学部卒。ゴールドマン・サックス、ドイツ証券等、大手金融機関にてプロップトレーダー、その後香港にてマクロヘッジファンドマネジャー。独立後も、世界各地の有力トレーダーと交流し、現在も現役トレーダーとして活躍。公式サイト(http://shimarikio-official.com/)
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