「通商問題」「リザーブシフト」により、ユーロ高・円高のトレンドへ?
公開日:2018年1月24日 12:00
最終更新日:2020年2月26日

前回のこのコラムでは、海外勢が意外なほど「円高」に賭けているという話をしました。1月23日に行われた日銀政策決定会合後のドル円相場の動き、これがこれから先のドル円相場の方向性を示唆している感じがします。
黒田日銀総裁は想定された通り、金融政策転換の可能性を否定しました。一部のトレーダーはドル円のショートを買い戻したのですが、その後怒涛の「ドル円売り」が被さり、ドル円は110円を割り込んでいます。
米国経済は絶好調です。米国株は止まる所を知らないような上昇波動にあります。逆イールド懸念で上昇しなかった米長期金利も2.6%台に乗せ、3.0%方向への道筋が見えてきました。一方の日本経済も好調ではありますが、金利は目先上がりそうには見えません。この先もゼロパーセントです。
一般的にはこの金利差でドル高・円安になってもおかしくないのに、どうして今「円高」なのでしょう。昨年までの考え方では、なかなか納得できません。
1つは、アベノミクスの反動相場が始まっていることです。黒田日銀総裁は金融引締めを全否定しましたが、それでも、欧米が出口政策に向かう中、あわよくば円安に走った場合、日本も一緒に緩和政策の出口へそっと向かいたいなという「色気」があることは確かでしょう。
もう1つは、円があまりにも割安だということ。海外に行くと日本の物価が安すぎることに気付かされます。経常収支黒字もかなり巨額になってきました。
ただ、ここに来て、もう1つの大きな円高材料が顕在化しつつあるようです。それは「通商問題」です。米国は中国製を念頭に太陽光パネルの輸入に対しセーフガード(緊急輸入制限)を発動しました。ブッシュ政権以来16年ぶりです。
これは手始めでしょう。今後通商摩擦が激しくなることが予想されます。トランプ政権は税制改革を実現したものの、支持率はさっぱり上がりません。今年は中間選挙があるので、支持層からのサポートを強めるためにも、公約の実現を今後着実に実行していく可能性があります。
この「米国第1主義」は必然的に他国の反発を招きます。従来、共和党政権はビジネスフレンドリーなのでドル高傾向、民主党は大きな政府なのでドル安というイメージがありました。この30年ほどは、共和党政権はどちらかというと「内向き」で米国第1主義、民主党政権は「グローバル」なイメージです。
対外政策でも、ブッシュ政権は対イスラムの戦いを始め、湾岸諸国の離反を招きましたが、クリントン・オバマ政権は対外融和を目指しました。ブッシュ政権のときにドル安が進んだのも(ユーロドルは0.8228の市場最安値から1.6035の最高値へと上昇)、湾岸諸国の資金シフトが大きな要因で、ドルリザーブの比率が大きく落ちました。オバマ政権になると、ユーロのシェアが落ちドルに戻ってきました。
トランプ政権は、歴代どの政権に比べても他国からの信頼が低い政権です。当然、ドルから他の通貨へのリザーブシフトが起こるでしょう。それは、金利が少々高いとか、そういう理由以外で起こる可能性があります。「通商問題」が表面に出てくると、どうしても「円高」になります。これは歴史的に常でした。
モルガン・スタンレーは、「通商問題」を理由に円ロングを推奨しています。そして、これからリザーブシフトの起こる可能性が高まっています。そのときはユーロ高となるのは必然です。ドル円の下げ、ユーロドルの上昇、この2つが2018年為替相場の柱になる気配がしています。
【PROFILE】志摩力男(しま・りきお):慶応大学経済学部卒。ゴールドマン・サックス、ドイツ証券等、大手金融機関にてプロップトレーダー、その後香港にてマクロヘッジファンドマネジャー。独立後も、世界各地の有力トレーダーと交流し、現在も現役トレーダーとして活躍。公式サイト(http://shimarikio-official.com/)
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