本当に始まったアメリカ貿易戦争 影響を各国の識者の見解と共に分析
公開日:2018年9月26日 20:00
最終更新日:2020年2月26日

昨年のトランプ米大統領の懸案は「税制改革」でした。そして様々な障害にぶつかりながらも、なんとか成し遂げました。「税制改革」が終わったのだから、今年は貿易が最大の問題になると一部市場関係者の間では話題になっていましたが、私自身は半信半疑でした。
貿易は過去何度も議題になった問題ですし、かつての赤字額と比べると、現在の米貿易赤字は対GDP比で見て取るに足らないレベルだからです。
それでも、トランプ大統領は「貿易戦争」を始めました。当初は「これは単なる中間選挙対策。シナリオのある対決、すなわちプロレスだ。選挙の直前には和解し、ハッピーエンドになることは決まっているのだ」と、したり顔で話す市場関係者がたくさんいました。
しかし、プロレスではなかったようです。9月24日に中国製品2000億ドルに10%の関税がかかることが決まりました。来年からはそれが25%になります。
10%ならまだしも、25%の関税がかかると影響は甚大でしょう。貿易戦争の勃発で各国経済がどの程度影響を受けるのかという試算が、あちこちで出ています。単純に2000億ドルの10%で影響は200億ドル、第1弾の500億ドルに対する25%関税の影響が125億ドルで合計325億ドル、米国のGDPを20兆ドルとすると、GDP比わずか0.16%の影響しかないと極めて単純な試算をする人もいれば、ECB(欧州中央銀行)は米国こそが貿易戦争の敗者だと分析しています。
最も説得力がありそうなのはIMFの分析でしょうか。米中ともに2019年は最大0.9%程度成長率が下押しされると分析しています。貿易の停滞のみならず、金融市場の混乱、資金調達コストの上昇や投資の手控え等々、幅広い副次的な影響を拾い上げています。
しかし、どうして米国は貿易戦争を始めたのでしょうか。先日発表になったボブ・ウッドワード氏による最新著作『Fear(恐怖)』でも、貿易問題でゲーリー・コーン氏(トランプ政権の元国家経済会議委員長、2018年4月に退任)とピーター・ナバロ氏(国家通商会議のトップ)が激突するシーンがあります。
「貿易赤字は問題のない、むしろ良いことだ。米国民はより安く物を購入することができ、余ったお金で他の物やサービスを購入したり、貯蓄に回したりすることも出来る」「99.9999%の経済学者は私に同意する」など、ゲーリー・コーン氏にナバロ氏は完膚なきまでに論破されました。だが、それでも大統領の考えは変わりませんでした。
トランプ大統領は米国の貿易赤字を本当になくそうと思っているのでしょうか。単純な人なので、本当にそうなのかもしれません。議論の推移を見ると、特に対中国では、単純に貿易赤字を減らすだけではなく、米中覇権戦争の様相を帯び始めています。
覇権争いということになれば、なかなか終わらないでしょう。アリババのジャック・マー氏も、今回の争い完全解決には時間がかかる、20年と言っています。米中の長い戦いが始まったばかり、そう考えると明るい未来だけが待っているようには見えません。
【PROFILE】志摩力男(しま・りきお):慶応大学経済学部卒。ゴールドマン・サックス、ドイツ証券等、大手金融機関にてプロップトレーダー、その後香港にてマクロヘッジファンドマネジャー。独立後も、世界各地の有力トレーダーと交流し、現在も現役トレーダーとして活躍。公式サイト(http://shimarikio-official.com/)
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