「米企業によるドルの帝国主義的循環」がドル高を呼ぶ
公開日:2019年3月30日 7:00
最終更新日:2020年2月26日

米国は引き締め政策を転換したのに、なぜドル高が続くのでしょうか。
2018年12月19日の利上げを最後に、FRBの金融緩和シフトが続いています。昨年暮れの利上げの際は、米中覇権戦争懸念もあり、米ダウが高値から5000ドル以上下落しました。
しかし今年に入って、パウエル議長は素早く金融緩和派に「転向」しています。2019年1月4日には、バーナンキ、イエレン元FRB議長とのパネルディスカッションで、早くも「柔軟に対応」と発言しています。
2019年1月30日のFOMCでは金融引き締め路線を放棄、「忍耐強く」という言葉で、この先の政策変更はないと強く示唆。先日の3月20日FOMCでは、予想以上に早くバランスシートの縮小をストップ(量的引き締め政策終了)、FOMC各メンバーの見通しを示すドットチャートも大幅に下方シフトしました。
この間、実際の米経済の指標はそれほど落ち込んではいません。経済指標との整合性を考えると、どうしてここまでハト派シフトしたのか、真面目な経済学者の方からすると全く意味不明でしょう。
しかも、FOMCで金融緩和方向に舵を切ったのに、実際のマーケットではドルが上昇しています。ドル円はほとんど動いていませんが、ユーロドルは1.14前後から1.12台前半に、このことが、解せない人も多いでしょう。
おそらく、中央銀行の役割が変わってきているのでしょう。
変わってきたというのは、実体経済に対する目配りはもちろん大事なのですが、金融マーケットの上下動が実体経済に及ぼす影響があまりにも大きいので、金融マーケットを暴落させないというのが最も大切な仕事になっているからです。ここで言う金融マーケットとは、主に株式市場、そしてクレジット市場です。
今回、パウエル議長は上手くやりました。批判も多いでしょうが、株式市場は安定化し、最近経済指標が少し悪化してきていますが、年末の頃と違い、クレジット市場も安定しています。リスクを未然に防ぐ、FRBの姿勢がはっきりしているからでしょう。
その安心感こそが、ドルへの資金流入を呼びます。債券市場が投資先としての魅力を失なった今、株式市場こそが資産市場になっています。株式を安定化させる政策を取る国に魅力があるので、今後も高いリターンを求める資金は、米国へ流れるでしょう。
米企業の国際競争力、特にIT分野では他を圧倒しています。世界中の市場で収益を上げ、その資金を米国に還流し、最終的には自社株買いとなって株式市場に投下されます。これを私は「米企業によるドルの帝国主義的循環」と呼びたいと思います。米国株を買うこと、これこそが現在の金融市場のなかで安全に良いリターンを得る有力な方法となっています。
米金利は今後(おそらく)低下していくでしょう。それでもドルは強い。「米企業によるドルの帝国主義的循環」、そしてそれをサポートするFRBの存在が大きいと思います。
【PROFILE】志摩力男(しま・りきお):慶応大学経済学部卒。ゴールドマン・サックス、ドイツ証券等、大手金融機関にてプロップトレーダー、その後香港にてマクロヘッジファンドマネジャー。独立後も、世界各地の有力トレーダーと交流し、現在も現役トレーダーとして活躍。公式サイト(http://shimarikio-official.com/)
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