*10:29JST 過熱する貿易戦争(2)【中国問題グローバル研究所】
◇以下、中国問題グローバル研究所のホームページ(※1)でも配信している「過熱する貿易戦争(1)【中国問題グローバル研究所】」の続きとなる。
新常態(ニューノーマル)に向けて
米政府は毎日のように方針を転換しているため確かなことはほとんどないが、現在の状況が続かないことは明らかだ。トランプ関税が90日間停止されているだけでなく、米中間の関税がこれほどまでに非現実的な高水準となっては、何らかの譲歩を検討せざるを得ない。ありそうもないことだが、仮に関税が取り下げられても、かつての現状を維持することはできまい。いずれにせよ、米国は多くの、あるいはおそらくすべての貿易相手国の信頼を失った。トランプ氏は今後数週間で、ベトナムなど特に貿易赤字が大きい一部の国と何らかの取引(ディール)を成立させられる可能性が高い。だが、ベトナムが米国製品に対する関税障壁を削減したとしても、それらの消費財を製造する工場すべてが米国に移転してくるわけではない。米国の将来の繁栄を支えるのは、ナイキのスニーカーの生産ではない。他の多くの東南アジア諸国にも同じことが言える。それに、トランプ氏と取引したからといって、米国を信頼できるパートナーと見る信頼関係が回復するわけではない。トランプ氏が同盟国やパートナー国を批判するなか、中国は貿易推進を掲げて信頼できるパートナーというイメージを打ち出しているが、中国の過剰生産と圧倒的な輸出攻勢の標的になっているのは先進国だけではない。米国との関係を深め、北部で国境を接する中国からの圧力とのバランスを取ろうとしていた国の好例がベトナムだ。ところがトランプ氏は、習氏の強硬なリーダーシップに懸念を抱く国々のネットワークを構築できる、このチャンスを無駄にしている。
貿易戦争が「沈静化」して米国の関税が10%に設定されたとしても、これは100年ぶりの高水準であり、米国の成長、ひいては世界の成長をゆっくりと、だが着実に蝕み、格差是正に対処する方針が示されることもないだろう。それでも、トランプ氏は大統領就任からまだ3カ月しか経っておらず、今後数年間にわたって権力の座にいることを忘れてはならない。しかも彼が残りの在任期間、静かにしているとは到底思えない。トランプ関税が経済にもたらす影響だけでも理解するのは困難だが、この政権が連邦政府全体に大混乱を巻き起こしていることも忘れてはならない。これらの影響は経済政策ほど報じられておらず、株式市場でも顕著な動きとして現れてはいないが、長期的な影響は根深く、ダメージを伴うだろう。
とはいえ、米国の失策が中国の追い風になると考えるのは早計といえよう。中国経済はすでに低迷しており、4年続く不動産不況が解消されず、債務も膨らみ続けている。トランプ関税は中国の工場にも影響を与えており、米国への輸出品の一部が別の国に向かう可能性もあるが、多くの国が中国による自国市場へのダンピングを警戒するようになるだろう。使い古された言葉だが、貿易戦争に勝者はいない。目指すべきゴールがよくわかっていない場合は特にそうだ。すべての国にとって唯一の選択肢になると思われるのが、経済と軍事両面での経済的強靭性の構築である。いずれ新常態(ニューノーマル)の形が見えてくるだろうが、それが明確になるまでの過程は、大きな混乱を伴う長い道のりになるかもしれない。
写真: トランプ米政権が閣議(提供:Molly Roberts/White House/Planet Pix/ZUMA Press/アフロ)
(※1)https://grici.or.jp/
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