*15:31JST ノイルイミューン Research Memo(1):独自開発のPRIME技術でCAR-T細胞療法の世界成長・大市場に挑む
■要約
ノイルイミューン・バイオテック<4893>は、PRIME技術※1を組み込んだ次世代型のCAR-T細胞療法※2により、固形がん適応のがん免疫細胞療法の構築を目指す国立大学法人山口大学発及び国立研究開発法人国立がん研究センター発の創薬バイオベンチャーである。
※1 Proliferation-inducing and migration-enhancing技術の略で、がん免疫細胞療法の効果向上のため、特定のサイトカインとケモカインを免疫細胞に遺伝子導入して発現させる技術であり、同社創業者・代表取締役である玉田耕治(たまだこうじ)氏らによって開発された技術。
※2 CARは Chimeric Antigen Receptorの略であり、キメラ抗原受容体と訳される。CAR-T細胞療法はCARを発現するように改変されたT細胞を患者に投与することにより難治性のがんを治療する方法であり、がん免疫細胞療法の一種。
1. CAR-T細胞療法市場と競争優位性
2020年の日本における生涯がん罹患率の統計では「2人に1人はがんにかかる」とされており、多くの人々の命を脅かしている。そのようななか、様々ながん治療法の中でCAR-T細胞療法ががん治療の最前線として近年注目を集めており、CAR-T細胞療法の市場規模は、2033年には302.5億米ドル(2024年からのCAGR23%)に達すると予測されている。巨大市場の創出が期待されているなか同社は、この成長著しい市場において2015年に起業した。
同社創業者が独自開発したPRIME技術は、C-Cモチーフケモカインリガンド19※1とインターロイキン-7(IL-7)※2の2つの遺伝子を搭載していることが特徴である。この技術により、免疫細胞を誘導してがんの部位に集め、集まった免疫細胞の反応を増強して、がん細胞を攻撃させる。車の技術に例えると、ナビゲーション(CCL19)とターボエンジン(IL-7)のような役割を果たす。
※1 C-Cモチーフケモカインリガンド19は、CCL19、マクロファージ炎症タンパク質-3β(MIP-3beta)としても知られる、リンパ節や胸腺、活性化された骨髄間質細胞などで発現するケモカインの1種で、T細胞や樹状細胞の遊走能を向上させる働きがあり、PRIME技術においてがん組織の中に免疫細胞を集める重要な役割を担っている。
※2 インターロイキン7(IL-7)は、リンパ球の分化や成熟T細胞の維持、リンパ器官の形成に重要なサイトカインで、PRIME技術においては、がん組織の中に集まった免疫細胞が活発に増殖し、長く生存するために重要な役割を担っている。
PRIME技術のように、2つ以上の遺伝子を同時搭載し、がん治療効果に重要な免疫細胞の「活性」と「集積」の両方の機能を高める特徴があるCAR-T細胞を強化した技術は世界初であり、固形がんに対するCAR-T細胞療法の成功にとって必要不可欠な技術と言える。PRIME技術は、既に世界50ヶ国以上で特許が出願されている(2024年7月時点)。
2. 最優先パイプライン「NIB103」の開発進捗と今後の見通し
複数の自社開発パイプライン「NIBシリーズ」のうち、最優先パイプラインのNIB103(固形がんを対象)をコアとした新たな事業戦略が始動している。その背景には、NIB103は早い段階で武田薬品工業<4502>(以下、武田薬品)へライセンスアウトされ、武田薬品主導で第I相臨床試験の一部が実施された。同試験では有効性及び安全性に関する確定的な解釈はできないものの、明らかに治療によると考えられる腫瘍縮小効果が観察された。その後、武田薬品の事業戦略上の判断によりNIB103の権利は同社に返還された。2024年9月にタカラバイオ<4974>とNIB103の開発に関する業務提携を締結し、開発・製造の準備が整った。2025年上期には、同社が主導する第I相臨床試験に向け、治験届の提出を進める予定である。そして、最優先で自社開発を推進し、早期にPhase1の臨床データ取得に注力するが、自社開発と並行してライセンスアウト先も模索しながら、可能な限り迅速に申請・承認(2028年〜2031年)を目指す。
3. PRIME技術(がん治療プラットフォーム)を基点にがん治療のビジネスチャンスの拡大
PRIME技術は、がん抗原を標的として検出する様々なCARと組み合わせることが可能で、幅広い固形がんへのアプローチが期待できる。また、様々ながん免疫細胞療法の技術(モダリティ)との融合・複合も可能であり、例えば、免疫チェックポイント阻害剤(PD-1阻害剤)との併用、ゲノム編集技術等を活用した他家(健常なドナー由来の細胞)のCAR-T細胞への搭載、遺伝子送達用ポリマー化合物との組み合わせ(東京大学と共同開発を推進中のin vivo CAR-T)などが挙げられる。そのほかにも、がん治療におけるモダリティの横展開が考えられ、多くの可能性を秘めている。
4. 2024年12月期通期の業績概要と収益予想
2024年12月期通期の業績は、事業収益が7百万円(前期比97.6%減)、営業損失が1,069百万円(前期は775百万円の損失)、経常損失が962百万円(同1,127百万円の損失)、当期純損失が964百万円(同1,130百万円の損失)となった。今期の研究開発投資は579百万円となり、2020年以降、自社パイプライン増設に伴い、高水準の先行投資が続いている。今後もしばらくは、自社のパイプラインの開発投資による負担が続くと考えられる。しかし一方で、導出している自社及び共同パイプラインが計画どおり進捗すれば、ライセンス収入が積み上がり、中期的には収益黒字化も視野に入ってくると弊社では見込んでいる。
■Key Points
・競争優位(免疫細胞の「活性」と「集積」の両方の機能を高める)のPRIME技術(がん治療プラットフォーム)を独自開発して、成長著しいCAR-T細胞療法市場において起業
・最優先パイプラインのNIB103は2025年上期に、同社主導の第I相臨床試験を開始予定
・PRIME技術を基点にがん免疫細胞薬のビジネスチャンスを拡大
・当面、自社パイプラインの開発投資による負担が続くが、中期的には収益黒字化も視野に入ってくる
(執筆:フィスコ客員アナリスト 清水啓司)
<HN>