消費税の納税額を正確に把握することを目的とした「インボイス制度(適格請求書保存方式)」が10月1日から導入された。導入前から様々な混乱を懸念する声があり、タクシー業界では「インボイス登録しているか判然としない『個人タクシー』が利用者から避けられるのでは」と心配する声があった。しかし、フタを開けてみると、全く別のところで混乱が生じていた――。
インボイス(適格請求書)とは、国が認めた新しい請求書の様式のこと。インボイスを発行できる課税事業者(適格請求書発行事業者)との取引では認められる「仕入税額控除」が、発行できない事業者(免税事業者)との取引では認められなくなり、発注元の税負担が増えてしまう仕組みだ(経過措置あり)。これまで売上1000万円以下の事業者は免税事業者でいられたが、取引先が不利益を被らないようにインボイス登録しなければならないケースが多くなるとみられている。
導入にあたって影響が懸念されていたのが、「個人タクシー」だ。タクシー料金を会社の経費で落とすビジネスマンなどが勤め先の税負担が増えないように、確実にインボイス登録している「法人タクシー」を選び、売上1000万円以下の免税事業者である可能性がある「個人タクシー」の利用を忌避するのではないかと予想されていたのだ。
一部の業界団体は、インボイスの登録の有無が「行灯(あんどん)」でわかるような対策を事前に講じ、話題となっていた。
懸念された「個人タクシーを避けるビジネスマン」はいない
しかし、インボイス制度の導入後に個人タクシーのドライバーに取材すると、「ビジネスマンから敬遠される」という困りごとは発生していないという。都内で営業する男性ドライバーはこう話した。
「今のところ、個人タクシーを避けるお客様は1人もいません。私も、もっとお客さんが減るんじゃないかと思っていたんですが、インボイスが始まってから、問題は1件もないです。始まる前は、『個人タクシーが避けられる恐れがあるので、みなさんインボイス登録しましょう』と組合から不安を煽られたので、急いでみんな登録したのに、始まってみると『あれ?』という感じですね」
複数のドライバーに話を聞いても、同様の反応だった。全国個人タクシー協会副会長で、東京都個人タクシー協同組合副理事長の水野智文氏も「全国個人タクシー協会の加入者でインボイス対応をしている事業者は96.5%(10月1日時点)にのぼりますし、今のところお客様が個人タクシーを避けているという報告は受けておりません」と話す。
行灯の使い分けといった対応も奏功してか、利用客とのトラブルはほとんど確認されていないという。ただし、当初懸念していたものとは別のトラブルに、頭を悩ませているとも水野氏は明かした。