お金との向き合い方は、時代とともに変容していく。世の中全体が貧乏だった時代もあれば、バブル景気に沸いていた時代もある。女性セブンの名物ライター“オバ記者”こと野原広子さんが、その半生の中で出会ってきた男たちの金銭感覚の変化について振り返る。
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「なんだかんだ言っても、カネつかんだ奴が勝ちだよ」「カネを貯めろ」「カネを残せ」
18才まで暮らした茨城の田舎でよく耳にした、お金に関するフレーズだ。両親が私に向かって言った言葉だったり、近所の井戸端話だったり、シチュエーションは違うけれど言ってることは一緒だから、いまでもいろんな声で耳の奥に残っている。
人によって、「カネ」が「ゼニ」になったけれど、大人たちの顔はみな同じで、羨望とあきらめと意気込みがまぜこぜ。
上京してからは、「○○さんは東京で働いていっぱいカネ残したんだと」と母親からギロリとにらまれた。その顔を見るのがイヤだった私は、65才のいまになっても、貯金という習慣が身につかない。それどころか、「残してどうする。自分で稼いだカネは使ってナンボ」と思う。これは、物心ついたときからの私の揺るぎない金銭感覚だ。
私は1975(昭和50)年に上京したんだけど、その頃から1980年くらいまでは、いまにして思えば、世の中全体“貧乏自慢”だったのよね。映画もテレビドラマも「労働者=美しい心、資本家=悪の権化」という対立が定番でね。
19才のときに初めて交際した新聞の配送をしていた男は、口を開けば、半笑いで「オレは金がないから」と言っていたんだわ。そのことをアパートの隣に住んでいたシングルマザーに話したら、「その男の人、やめた方がいいよ」とズバッと言われたの。
「そりゃあ、人は一生懸命に働いても貧乏になるときもあるよ。だけど、若くて彼女もできたのに、自分は金がないと最初から開き直るのが気に入らない」って。「貧乏なんか、ちっとも自慢にならないんだよ」とも。
そのママは池袋のグランドキャバレーで働いていて、夜になると子供を大家さんに預け、すっぴんにカジュアルな服で出かけて行った。「子供に濃い化粧した顔を見せたくないから、化粧は店でするのよ」と言ってたっけ。
案の定、その男とは半年足らずで別れた。「マーガリンのつけ方が気に入らない」とか言われたことを覚えている。
それから結婚して4年で離婚。そのきっかけになった男と1年8か月一緒に住んで、そいつから200万円くらいの借金を背負わされた。フリーランスのライターの私は仕事が忙しくなってきて少しは稼げるようになったけれど、お金の出入りが忙しいなんてもんじゃない。