*11:04JST P-京橋アートレジ Research Memo(4):ESG経営を実業に取り入れる
■京橋アートレジデンス<5536>の事業概要
3. ESG関連事業
同社は様々な取引先企業と連携し、暮らしを豊かにするESGや持続可能な開発目標(SDGs)への取り組みを実業として強化している。再生可能エネルギー事業は、ESG関連事業の主軸となっている事業で、環境に優しく安全でクリーンなエネルギーを生み出す太陽光発電施設を、千葉県と茨城県を中心に全国27ヶ所(2025年5月末現在)で保有運営している。ただし、新築マンション開発事業が急成長していることから資産の入れ替えを進めており、太陽光発電施設を徐々に売却していく方針である。また、不動産開発創造事業で自社開発したマンションや戸建などの物件のうち、新たな企画を導入した物件を中心に、賃貸マンションとして同社自らが賃貸運営する賃貸資産保有事業も展開している。ほかにもポートフォリオ経営を意識して、住まいや暮らしに役立つ学習塾や幼児教育施設、児童養護施設、トランクルーム、コインランドリーといった安定資産を保有・運営している。これらにより快適な社会生活の実現に寄与する方針だが、加えて同社企業活動の安定化や今後の事業展開に生かす考えである。今後は、少子高齢化や人手不足などが急速に進むことが予測されているため、高齢者支援などにも取り組む意向である。
ネットワークを軸に商品力、事業展開力で強みを発揮
4. 同社の強み
同社の強みは、ネットワーク、商品力、事業展開力にある。ネットワークはさらに、推進力、企画力、監理力、一気通貫した体制といった強みにもつながっている。
ネットワークはさらに、知名度や信頼が高まるにつれ不動産仲介業者や銀行、証券会社、税理士事務所、会計事務所などとの関係を太くすることにもつながっている。また、同社とこうした企業・事務所はターゲットがともに富裕層のため、同社が顧客を紹介してもらうだけでなく、同社との取引によって同社顧客に発生した金融や税務、運用、資産処理などのニーズを紹介することができるため、相互補完の関係にもある。加えて、新たな顧客を紹介してくれる富裕層や、様々な情報を交換しあう同業とのネットワークも強みといえる。特に同業とは、一般的な競合関係に陥ることも多いが、資産形成用一棟収益マンションという競合が起きるにはニッチ過ぎる市場においては、情報交換を行うことで共存共栄が図られている。同社業態に近い新築投資用マンションの(株)タスキが2024年4月に資産運用型の新日本建物と合併し、より大きな共同持株会社タスキホールディングス<166A>となったが、同社にとって脅威というより情報力が強化されたという点でメリットの方が大きい。同社はこうしたネットワーク力をさらに強めるため、共同事業、事業提携、資本提携など取引先との関係強化を目的に2024年4月に情報開発部を新設した。さらに同年6月、証券関連事業と中古不動産再生など不動産関連事業を併営し富裕層に強いあかつき本社<8737>と提携し、資産形成用収益賃貸マンションを共同開発を行い、既に顧客への引き渡しも完了している。なお、同社は引き続き複数物件の共同開発に取り組んでいる。
しかし、商品力や事業展開力がなければ、こうしたネットワークも生かすことができない。同社は商品力を強化するため、トランクルームやカーシェアポートの設置など様々な機能を取り入れて物件の付加価値化を図っているほか、防音マンション「ラシクラス(RASICLAS)」を販売する(株)らしくと提携してミュージシャンやユーチューバー、ゲーマーからのニーズが高い防音マンションを開発するなど、企画力やデザイン性、資産価値の高い商品の供給を続けている。また、事業展開力の面では、シナジーを考慮しつつスタートアップ企業への出資を行っている。出資を通じて、不動産開発にDXを導入することで生産性と効率性の向上につなげ、相対的に高い事業収支率を実現した。さらに、リノベーション再販事業において、多様化するニーズに対応したリノベーション住宅開発や省エネ住宅など事業領域の拡大を目的に(一社)リノベーション協議会に入会した。
人材育成の強化や資金調達など課題の解消に動く
5. 同社の課題
企業規模が急速に拡大するなか、強みをさらに発揮するためには、人材育成の強化と資金調達の多様化が課題になる。東証TOKYO PRO Marketへの上場によって管理面の人材が補強でき、内部統制やリスク管理体制の整備・強化及びコンプライアンスの徹底は進んだ。しかし、現状では急成長中の新築マンション開発事業に人材を集中する必要があり、リノベーション再販事業には人材を回しきれていない。リノベーション再販事業のニーズが高まっているため、今後、人材育成の強化がより必要になってきた。また、総資産121億円に対し棚卸資産が76億円、借入金が93億円という財務体質(2025年11月期中間期末)も課題といえる。在庫自体がプロジェクトとして資金調達と紐付いていること、金融機関とのネットワークが強固になったことから、今後も借入金と棚卸資産を増やすことで事業規模の拡大が可能と考えられる。しかし、金利が反転上昇しつつあるなか、棚卸資産と紐付いているとはいえ借入金の大きさはリスクといえ、棚卸資産の安定的収益化(在庫回転率の引き上げ)、資産の入れ替え、直接金融などによって、将来的に財務体質を向上させる必要があると思われる。同社はこうした課題に関して既に認識しているようで、解消に向けて動いているところである。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 宮田 仁光)
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