核家族化や都市部への人口移動を背景に、故郷の「墓じまい」を選ぶケースが増えている。
厚労省の「衛生行政報告例」によると、2016年度の墓じまいは約9万7000件で5年前から2万件以上も増えた。取り出した遺骨は「都市部で新たに墓を作ると土地代が高額になるため、納骨堂や合祀墓に祀るケースが多い」(柳谷観音大阪別院泰聖寺院代の純空壮宏副住職)という。
ただ、“大ブーム”の墓じまいには、お金も人間関係も失うリスクがある。都内在住の72歳男性は母の三回忌をきっかけに故郷の長崎の墓を都内に移した。
「納骨から半年ほど経った頃、遠縁の親戚から“本家の墓をどこにやった”と猛抗議がありました。兄弟や住職とは話し合っていたんですが、本家として先祖代々の墓を兼ねていたことへの意識が薄く……この一件で親戚との関係が断絶し、故郷にも戻れません」
葬式・お墓コンサルタントの吉川美津子氏は「お金をかけて墓じまいを急いだ結果、親戚や知人などとトラブルに陥るケースもある」と警鐘を鳴らす。
田舎まで墓の手入れをしに行くのはお金も時間もかかるから、“墓じまいは得”だと考えがちだが、実際は思いのほか費用がかかる。
「もとのお墓は石を撤去し、更地にして返します。石材店へ依頼することになり、1㎡あたり10万~20万円が相場。立地条件によって割高になることも。また、移転する距離にもよりますが、運搬設置費用が30万~80万円程度かかる。菩提寺の住職に閉眼供養代や離檀料などが発生するケースもあり、一般的には法要の3回分で5万~30万円とされます。
移転先は納骨堂が割安といっても、本人だけが入るのか、家族や子孫も含まれるのかなどで幅があり、40万~150万円程度が必要になる」(吉川氏)