日本企業の代名詞だった終身雇用制度も時代の変化の中で薄れていき、転職が珍しくなくなった近年、その数は年々増加している。総務省統計局が2023年12月に公開した「直近の転職及び希望者の動向について」によると、転職した人は前年に比べて12万人増加。転職希望者数は1035万人と78万人増加し、過去最多をマークした。
一方で、その転職が必ずしも自分にとって“成功”とは限らないのが悩ましいところだ。新卒で人も羨む大企業に就職したものの、さまざまな理由で中小企業へ転職した人のなかには、“最初に大手を見てしまったがゆえ”の苦悩を抱くケースもあるようだ。
「若手に裁量権がある」=「現場が勝手に仕事を進める」
田舎で子育てをしたいという考えもあって、日本を代表する大手重工メーカーから地方の町工場へ転職したHさん(30代男性)。「若い人にも裁量権を与える」といった誘い文句も魅力的に感じていたが、早々に「言葉の意味を取り違えていた」と言う。
「給料はやや下がりましたが、現場に権限があるとか、若手に裁量権があるというキャッチフレーズに惹かれました。大手ではなかなかキャリアアップも思い通りにならないけれど、中小ならそれが目指せるのかもという思いもありました。
ただ実際に現場に入ってびっくりしたのは、 “報・連・相”という概念が一切なかったことです。前職では何をするにしても上長の確認を取って稟議書を作成して、それが認められてやっと現場が動けるという感じだったのですが、今の会社は、現場が勝手に仕事を進めていて、誰が何をしているのか全く把握できていません。これが裁量権というわけですが、リアルの状況は単なる放置にも思えました。
大企業で何をするにも時間がかかるのは見直す余地があるのかもしれませんが、“現場権限”というのも、ものはいいようというか、上が無責任という言葉の裏返しにも思えて……何かあった時が怖いなと思いながら、大手では研修もしっかりしていたことを思い出す日々です」(Hさん)