「もっといいところがあるのでは…」
もちろん職場にもよるし、感じ方は人それぞれだ。Yさん(30代男性)は大手広告代理店に勤めていたが、元々好きだった車関係の職に就きたいという思いが強くなり、思い切って30歳で転職。大手自動車メーカーからも発注がある部品会社にエンジニアとして足を踏み入れ、「裁量権」を与えられた風通しのよい職場で自身が成長するのを実感しているという。
「転職した理由は、実際に自分の手で何かを作っている、という手応えがほしかったからです。広告代理店は給料がよくて華やかにも見えるかもしれませんが、簡単に言えば延々と上司やクライアントのご機嫌取りをしている状態。だんだん虚しくなってしまって……。具体的に形になる仕事がしたい、という気持ちが大きくなり、転職を決意しました」
1000人以上いるような大企業から小規模の会社に転職したYさん。「前職では、正直“上司に言われたことをこなしていただけ”だったことを突きつけられています」と話す。
「大きな組織では自分の業務範囲が明確でわかりやすかったのですが、今は自分で考えて動かなくてはいけません。ただ社員同士の顔が見えるので、私が困っていると必ず誰かが声をかけてくれるし、階級・役職に関係なく、全員で目標を達成しようとする空気感は心地いいです。自分が成長していることも実感します」(Yさん)
ただしYさんは、「長く勤めるかどうかはわからない」とも続ける。
「中小企業はその規模感から“裁量権”や“風通しの良さ”、“アットホーム”が求人のキーワードになりやすいんですよね。ただ裁量権が早くから与えられると、結局その職場で自分のできる限界が早く来るかもしれないし、アットホームというのも、裏を返すと人が入れ替わればその雰囲気が変わる可能性は大きいということでしょう。
中小企業はやりたいことがすぐにできるのは確かかもしれませんが、付き合う人の数も少ないので、“飽き”も早めに来るような予感がしています。これらは僕が最初に大きな会社に入っていたから思うことですから、ないものねだりですかね……」(同前)
Yさんは、転職について「自分の働きたいように働ける職場を探せるのはいいことだと思う」としつつも、「一度転職すると、“もっといいところがあるんじゃないか”と思えてきてしまうのが、転職者の“あるある”です」と苦笑いする。
転職者が増えている背景には、Yさんが思うように“転職を繰り返す”人も珍しくないということもあるのかもしれない。(了)