*09:00JST 米トリプル安とマスク氏退任【フィスコ・コラム】
米財政赤字拡大に対する懸念でアメリカの債券、株式、ドルが売り圧力にさらされています。トランプ大統領が就任当初に目指した歳出削減計画は小幅にとどまり、格下げが痛手になりました。腹心のイーロン・マスク氏の退任は財政の行き詰まりを象徴しているのでしょうか。
5月中旬から下旬にかけて、ドル・円は148円65銭から142円11銭まで下値を切り下げる場面がありました。手がかりとなったのは米金利高(債券安)で、指標となる米10年債利回りは4.40%付近から4.60%付近まで上昇。NYダウはこの間、42700ドル付近から41600ドル付近に落ち込みました。「解放の日」以降、こうした「トリプル安」が時折みられるようになり、市場は警戒を強めています。
格付け会社ムーディーズは5月16日、アメリカの長期信用格付けを「Aaa」から「Aa1」に引き下げました。アウトルック(見通し)は「ネガティブ」から「安定的」に引き上げられたものの、格下げという事実の重みは大きく、市場ではリスク資産全般に売りが広がりました。米国債券の信認低下が強く意識されたことで、ドル安と株安にも波及し、典型的なトリプル安の構図が浮き彫りになっています。
背景にあるのは財政健全化の後退です。トランプ氏が打ち出した「One Big Beautiful Bill Act」は、富裕層向けの大幅減税とインフラ支出をセットにした大規模歳出法案でしたが、その財源の裏付けは不透明なままでした。大規模な減税と歳出削減を盛り込んでいるものの、財政赤字を10年間で最大4兆ドル(575兆円)拡大させるとの試算もあります。
議会では共和党の強硬派主導で法案を通過させ、マスク氏率いる政府効率化省(DOGE)が進めてきた歳出削減は期待されたほど成果を上げていないように見えます。直近のテレビとのインタビューで、同氏はトランプ氏肝入りの税制・歳出法案が財政赤字削減の取り組みを阻害すると批判。「正直に言って、この巨額の支出法案を見てがっかりした」と述べています。
財政収支の改善が遠のけば安全資産としての信認はますます低下し、一段の債券安(金利高)を招くことになります。実際、中国の米国債保有はさらに比率を下げ、国別ではイギリスと順位が入れ替わり3位にダウン。トリプル安が一時的な現象にとどまるのか、あるいは構造的な不安の前兆なのか、今後の財政運営が試されています。
(吉池 威)
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