*09:00JST 調整続くインドルピー【フィスコ・コラム】
インド通貨ルピーの安値もみ合いが目立ちます。下げは一服したものの、依然として年初来安値圏に張り付く展開。長年良好だった米印関係がこのまま冷え込めば、高成長のインド経済に打撃を与えかねないとの懸念がルピー買いを弱めているもようです。
ドル・ルピー相場は7月下旬の86ルピー半ばから値を下げ、8月に入って一時88ルピー台目前まで売られ、年初来安値を下抜けました。その後は87ルピー後半まで戻したものの、回復には至っていません。直近の消費者物価指数(CPI)は前年比+1.55%と、インド準備銀行(中銀)の目標レンジ2-6%の下限を下回り、追加利下げ観測はやや後退したものの、不確実性による一段の緩和ならさらに弱含む展開もあり得ます。
ルピー安の要因は、米トランプ政権の高関税政策。インドによるロシア産原油の輸入継続の対価がウクライナ戦争の資金源になっていると非難し25%の関税を追加、計50%に引き上げたことが背景にあります。両国の長年の友好関係で最悪の事態は避けられるとの市場の期待は打ち砕かれ、外国人投資家の売りが膨らみルピーを押し下げました。通商協議は打ち切られ、先行き不透明感が下押し圧力となっています。
インド中銀は為替介入により、急激な下げを抑えました。高関税は繊維、宝飾品、農産品など米国向け依存度の高い産業に打撃となり、採算悪化で中小企業が圧迫。今後は雇用や家計にも影響が及び、2025年後半のGDP成長率を低下させると指摘されています。成長シナリオが揺らぎかねないとの見方から、株価指数SENSEXは節目の80000ポイントを割り込む場面もありました。
通商摩擦は安全保障の枠組みにも関連し、アジアの不安定化も懸念されます。日米印豪の「クアッド」は中国牽制の要として機能してきましたが、米印間の信頼が低下すれば、中国に有利な戦略環境が広がる恐れがあり、その実効性にも影響を与えかねません。実際、モディ首相は緊張が高まるなか、今月末に中国を訪問する予定。7年ぶりの訪中で印中関係が修復すれば、米印の亀裂を深める可能性があります。
米印間の摩擦による市場の混乱は、産業構造や地域秩序にも波及しかねません。高関税や外交関係の変化は、インド経済の成長基盤を長期的に弱めてしまう要因となり得ます。ウクライナ戦争終結に向けた米ロ首脳会談が注目されるなか、独立記念日を祝うインドは改めて戦略を考え直す節目を迎えたと言えそうです。
(吉池 威)
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