綺麗に整備されていたのが印象的だったという(写真提供:毎日新聞出版)
東京・渋谷区の一等地に佇む「秀和幡ヶ谷レジデンス」。立地は申し分ないが、“ある問題”がきっかけで住民間闘争が勃発した。「秀和幡ヶ谷レジデンス」ではマンションを管理する理事会が25年にもわたり“独裁体制”を築き、理解しがたい独自のルールを押しつけられ続けた住民の怒りが爆発したのだ。立ち上がった一部の住民は、理事会の体制をひっくり返すため“過半数の委任状”を集めることに奔走する。その期間は1200日間にも及んだ――。
そんな「秀和幡ヶ谷レジデンス」に注目したのがノンフィクションライターの栗田シメイ氏。栗田氏は取材を重ね、3月に『ルポ 秀和幡ヶ谷レジデンス』(毎日新聞出版)を上梓した。今回はその取材の裏側を本人に聞いた。
栗田氏は、事件・政治・スポーツなど幅広く取材活動をしており、マンションや不動産には素養があったわけではなかったという。なぜ今回マンションについて取材しようと考えたのか。
「最初は週刊誌で進行するための企画として進めていました。2、3ページの記事にすることを想定しながら取材をしていたので、その時はあまり深く追及していませんでした。でも住民の人たちに話を聞いて回るなかで、みなさんの管理側への凄まじい怒りの感情が印象的に映ったんです。人生でこんなに人が怒ることってあるかなと思うほど怒りを露わにしていたんですよね。それを目の当たりにして、私自身、『これは何かある』と感じ、マンションへの興味が高まっていったんです。それから書籍化するという流れになり、膨大な資料や記録を読み漁るなかで理事会の体制の“異常さ”にさらに引き込まれていった」
常に理事会に「監視」される状態
栗田氏が事態の深刻さを描写するうえで意識していたことがあるという。
「著書のなかでは、住民側と理事会側がマンション総会で感情をむき出しにして対立する場面を多く組み込んでいます。そこで飛び交っている怒号や、理事長から住民への罵倒などはそのままに近い状態で再現しました。そうすることで、実際に繰り広げられている討論と、人間と人間がぶつかり合う“熱量”がイメージしやすくなると考えました。マンション管理に関心がない方からしても、闘争の臨場感は感じて頂けると思います」
総会での理事会と住民とのやり取りなどを通じて、理事会への“不可解さ”が募っていった。
「理事会のメンバーもほかの人と変わらない“住民”であるはずなのに、入居面談が行なわれ、理事会の意にそぐわない場合には入居を拒否される。入居すると決まれば、引っ越し中に荷物を漁られて『これは持ち込めない』などと止められる。マンション内には50台以上の防犯カメラが設置され、常に理事会が監視している――。非常に狂気じみた管理体制の実態が浮き彫りとなってきました。それらの様子はネット上でも『渋谷の北朝鮮』と揶揄されていたほどです」