夏の甲子園大会主催者としての立場が報道姿勢に影響したか(時事通信フォト)
全国高等学校野球選手権大会(夏の甲子園)で初戦突破後に出場を辞退するという異例の事態となった広島代表・広陵高校。同校で起きた暴力問題報道をめぐって、大会主催者である朝日新聞の姿勢が問われている。【前後編の後編】
主催者であり取材者の矛盾
朝日が高校野球の不祥事報道に及び腰なのはなぜなのか。
「高校野球に関して朝日は報道機関と主催者という相反する2つの立場があるため“中立的な報道”は難しい」と指摘するのは朝日新聞OBのジャーナリスト・尾形聡彦氏だ。
「広陵高校の問題では、朝日新聞は主催者の立場からは問題を穏便に済ませたい。一方で報道機関としては、教育事業として位置づける高校野球のなかでいじめ、暴力が行なわれていたわけであり、徹底的に事実を明らかにし、問題を糾弾する立場にある。完全に相反するものとなっている。
主催者とはいえ朝日新聞は報道機関なので、取材して書かなければいけない。今回、こうした矛盾が明らかになったのではないでしょうか」
夏の甲子園大会の入場料収入(昨年)は約9億円、高野連の運営費や選手の滞在費補助を差し引いた剰余金は約2億8849万円。朝日は剰余金の主な使い道として、都道府県の高校野球連盟への支援や暑さ対策助成金などに充てたと公表している。事業としての利益は関連基金に回されるが、宣伝効果や紙面への寄与は絶大で、総合的に見ても夏の甲子園を主催することでブランド力を高めているのは間違いない。
とくに朝日は慰安婦報道や福島第一原発事故の吉田調書をめぐる誤報をきっかけに部数を大きく落とし、本業のメディア部門の赤字を不動産などほかの事業で埋めている。不祥事を報道して自社のキラーコンテンツである甲子園のイメージを損ないたくない理由がある。