センサー・ドローン・AIによる点検の進化
地下に埋設された水道管や下水道管は、普段の生活では目にする機会がありません。しかし、老朽化や破損は目に見えない場所で静かに進行し、異常が顕在化したときにはすでに深刻な被害となっていることも少なくありません。こうした「見えない危険」にどう対応するか──その解決策として注目されているのが、センサーやドローン、AIを活用した次世代の点検技術です。
センサーは、管内の水流や振動、音の変化を捉える小型装置で、常時ネットワークの状態をモニタリングします。わずかな漏水であっても、水がしみ出す際の微細な音を感知し、異常の兆候を即座に検出することが可能です。これにより、住民からの通報や陥没などの「事後対応」ではなく、事前に予兆を捉えて修繕に移る「予防的保全」が可能となります。
さらに、こうしたセンサーから集められる膨大なデータは、AIの解析によって価値ある情報へと変換されます。AIは、振動のパターンや音の周波数を解析し、過去の事例と照合して異常の有無や位置を判断します。人の耳では聞き取れない漏水音でも、AIは生活騒音の中から特徴的な信号を抽出し、ピンポイントで場所を特定することができます。
一方、管路内部の目視点検にはドローンの活用が進んでいます。細く曲がりくねった管路に、小型の飛行・走行ドローンを送り込み、カメラで映像を撮影。これにより、作業員が危険を冒して内部に入らずとも、リアルタイムで状態を確認できるようになりました。とくに崩落のリスクがある老朽管の点検では、ドローンによる映像取得は、安全性を確保するうえで重要な選択肢です。
これらの技術導入は、点検の精度と効率を高めると同時に、人手不足という構造的課題にも対処する力を持っています。少人数でも広範囲を短時間でカバーでき、作業員の身体的・精神的負担も軽減されます。
ただし、これらの技術はあくまで“補助的なツール”にすぎません。センサーが異常を検知し、AIが解析を行っても、現場での原因究明や修繕作業は依然として人の手によるものです。技術による効率化が進んだとしても、それを使いこなし、現場で対応する人材の確保と育成が不可欠です。デジタル化と人の技の融合こそが、持続可能なインフラ維持管理の鍵を握っているのです。
※橋本淳司著『あなたの街の上下水道が危ない!』(扶桑社)より一部を抜粋して再構成。
(第3回に続く)
【プロフィール】
橋本淳司(はしもと・じゅんじ)/水ジャーナリスト。アクアスフィア・水教育研究所代表、武蔵野大学工学部サステナビリティ学科。専門は水資源問題、特に日本における水道事業とその民営化問題について精通している。これまでに多数の書籍を執筆し、新聞やテレビ番組においても水問題の専門家としての見解を発信。地球温暖化や人口減少に伴う水資源の危機に警鐘を鳴らし、さまざまなメディアでの発信や全国での講演活動を行っている。