全国で下水道事業の経営破綻が懸念されている
今年1月、埼玉・八潮市で起きた大規模な道路陥没事故は、私たちの足元に潜む「見えないリスク」を突きつけた。背景には、1990年代以降に全国で進められた下水道整備の過剰投資がある。景気対策として拡張された下水道網は、採算性や維持管理の将来像を見通せぬまま整備され、小規模自治体では利用が伸びず維持コストが財政を圧迫している。
我々の命である「水」インフラの在り方を問い直す、水ジャーナリスト・橋本淳司氏の著書『あなたの街の上下水道が危ない!』より一部を抜粋して再構成。【全3回の第1回】
無理やり延伸された下水道網
1990年代以降、全国各地で下水道の整備が進みましたが、その背景には景気対策という側面がありました。とくにバブル崩壊後、公共事業による地域経済の下支えが求められた時代には、下水道整備が有力な政策手段とされました。理由の1つは、下水道工事が比較的多くの地元業者に発注できること、そして用地取得の必要が少ないため、工事の大部分が地域内にお金として落ちるという利点があったからです。
この流れの中で、もともと小規模な浄化槽や合併処理浄化槽で十分対応可能だった地域にまで、無理に下水道網が延伸されていきました。自治体側も雇用対策や予算確保の観点から国の方針を受け入れ、政治的にも「整備を進めた」という実績づくりが重視されました。その結果、採算性や維持管理の将来像を十分に見通せないまま、整備が進んだ地域も少なくありません。
下水道整備は、「インフラの進展」としてわかりやすく評価されがちです。しかし一方で、その維持コストが長期的に自治体財政を圧迫する要因となります。とくに人口減少が急速に進む地域では、整備された施設の利用が見込んだほど伸びず、結果的に収支のバランスが大きく崩れてしまいます。
本来であれば、人口規模や地形、代替処理手段の有無を考慮して、下水道の必要性を慎重に判断すべきでした。
しかし、当時は整備ありきの方針が先行し、結果的に「使われない下水道網」が残ることになったのです。このような過去の選択が、現在の財政負担の大きな要因となっていることを忘れてはなりません。
