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【注目トピックス 日本株】モリテックスチール:特殊鋼を取扱う専門商社でメーカー機能も併せ持つ、PBR0.3倍台で推移

*17:56JST モリテックスチール:特殊鋼を取扱う専門商社でメーカー機能も併せ持つ、PBR0.3倍台で推移
モリテックスチール<5986>は、特殊帯鋼・普通鋼等を取り扱う専門商社ながらも、焼入鋼帯・鈑金加工品の製造・販売を行うなどメーカー機能も持っている。商事部門での鋼材販売を主軸としながら、焼入鋼帯や鈑金加工といった製造機能を有し、加えて新規事業としてEV充電器分野への参入を進める。主要顧客は自動車、家電、機械、精密部品関連で、素材供給から部品加工までを一気通貫で手掛けることができる点が特徴である。連結子会社は国内外8社に及び、タイ、メキシコ、中国、インドネシア、ベトナムなどに拠点を構えるグローバル体制を構築している。

同社の競争優位性は、「商社×メーカー」の一体運営による柔軟性と技術力の双方を備える点にある。商事部門では、特殊帯鋼、ステンレス、表面処理鋼板などを幅広く取り扱い、小ロット・短納期対応を強みとする。顧客ニーズに応じたきめ細やかな在庫対応や加工提案により、長年にわたり多業種の製造業と関係を築いてきた。製造部門の中核である焼入鋼帯では、同社独自の熱処理技術を用いた「ハイベント(ベーナイト鋼帯)」や広幅焼入鋼帯を展開し、クラッチ部品、ゼンマイ、刃物など精密用途で高い評価を受ける。さらに鈑金加工部門では、コードリールや自動車部品などを手掛け、金属加工から組立まで一貫生産体制を整備する。これらの領域は単なる素材供給ではなく、製造現場に近い「加工提案型ビジネス」を可能にしており、同社ならではの付加価値を生み出している。

2026年3月期第1四半期は、売上高12,137百万円(前年同期比3.0%減)と減収ながら、営業利益は368百万円(同284.9%増)と大幅増益で着地した。商事部門は主力顧客の自動車向けや家電需要の調整が続き、半導体需要も回復が緩やかであること等の影響があったが、スプレッド改善による採算向上で大幅増益を確保した。一方、焼入鋼帯は原材料高の影響があり、鈑金加工品は主力販売先である自動車業界向けの売上高が微減したこと、各種コスト高に加えて一部製品在庫について収益性が低下したと認められたことで採算が悪化。海外事業は、新規部品が受注好調等のほか、生産効率の向上や品質の改善に努めたことでセグメント損益が黒字転換を果たした。

市場環境としては、主要顧客である自動車業界のEV化、脱炭素化が進む一方、国内製造業の価格競争は依然厳しい。一方、海外では円安を背景に輸出環境が改善しており、焼入鋼帯の販路拡大が追い風となる。EV関連需要は今後拡大が見込まれ、政府が掲げる2030年までに普通充電器30万口設置という政策目標に対し、同社は10%超のシェア獲得を掲げている。競合するパナソニック、ニチコンなどが家庭・車載系を主軸とするのに対し、モリテックスチールは商業施設や産業用途向けの「施工性・耐久性・拡張性」を訴求。自動巻取り機能や小型の壁掛け型など現場目線の設計が評価され、受注は着実に増加している。EV充電器はまだセグメント売上への寄与は小さいものの、環境配慮型事業への転換を象徴する存在である。

同社は資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応を開示、「3つのステージ」と呼ばれる成長戦略のもと、ROE8%、PBR1倍以上を最終目標として目指している。第1ステージは基盤固め期として、既存事業の再構築と収益改善を推進。商事部門では中川産業買収によるスリット加工内製化などでサプライチェーンを再編し、製販一体化を加速する。焼入鋼帯では円安を追い風とした海外マーケットの新規創出と国内向け販路拡大、鈑金加工では販売価格の適正化とコスト削減を図りつつ、海外事業では新規需要開拓の積極的推進と拡販を行っていく。第2ステージは2030年を見据えた環境配慮型展開であり、EV充電器や脱炭素関連製品の拡販を柱とする。第3ステージは2040年に向けた新技術・新事業の創出を目指す構想で、既存技術を応用した新素材やエネルギー関連分野への展開を想定している。

株主還元方針は将来の事業展開と経営体質強化のための内部留保を確保しつつ、安定的かつ継続的に配当を実施していくことを基本方針とし、配当を実施してきた。今後も安定配当を維持していく方針。PBR は過去5年間 0.3-0.8 倍の間で推移しており、同社はROE水準が安定しておらず株主資本コストが推計8-9%程度であることから十分なエクイティ・スプレッドを実現できていないためであると分析している。また、過去5年間のROEが低位で推移した主な要因は、売上高利益率が低いことと分析しており、収益性の改善を主として図っていくようだ。そのほか、政策保有株式の縮減を検討中で、保有リスク低減と資本回転率の改善に取り組む姿勢を明確にした。IR活動についても、サステナビリティ方針や人的資本開示を整備し、投資家との対話拡充を強化している。

総じて、モリテックスチールは鉄鋼商社としての伝統的な強みを活かしつつ、製造・開発領域への垂直統合を進めることで安定収益基盤を築いてきた。現状では商事部門が全体売上の約7割を占める一方で、焼入鋼帯・鈑金加工・海外事業が周辺を支える構図である。EV充電器はまだ小規模ながら、脱炭素・エネルギー転換というメガトレンドの中で同社の存在感を高める起点となり得る。課題は鈑金加工部門の収益性改善と、新規事業の収益寄与をどれだけ早期に確立できるかにある。短期的には事業構造改革の実行力が問われるが、中長期的には新たな成長像が描かれつつある。製造現場を支える確かな技術基盤と変化を恐れない事業変革姿勢が、次の成長ステージを切り拓く鍵となりそうだ。PBR0.3倍台で推移する同社の今後の動向に注目しておきたい。

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