パーキンソン病発症リスクを可視化する検査キット
パーキンソン病は、腸で凝集したαシヌクレインというタンパク質が、迷走神経を介して脳に到達・凝集することで、20年以上かけてゆっくりと発症する病気です。パーキンソン病は60歳前後での発症が多いため、40代後半から50代にかけてαシヌクレインとFABP2、FABP3の蓄積量を測ることで、将来の発症リスクを予測することが可能です。あらかじめリスクを認識できれば、発症時期を遅らせたり、予防に取り組んだりすることも夢ではありません。そこで私は、血液中の「FABP2」と「FABP3」を測定する検査法を開発し、ベンチャー企業「BRIファーマ」を立ち上げて、血液検査によるリスク判定を開始しました。
被験者はクリニックで採血を行ない、自社研究室に設置した超高感度タンパク質分析装置「SIMOA(シモア)」で測定します。従来の脳画像検査や脳脊髄液検査比べて手軽で、かつ安価であり、ここで蓄積された検査データは将来の治療薬研究の土台としても活用が期待されています。SIMOAは一般的な免疫学的測定法(イムノアッセイ)より約1000倍感度が高いため、現在はクリニックに足を運ばずとも、自宅で自己採血したわずか1滴の血液を郵送するだけでリスク判定ができるキットも提供しています。
手軽に安くリスク判定できる超高感度タンパク質分析装置「SIMOA(シモア)」
発症リスクを下げるための「腸内環境」改善
腸の炎症を引き起こす大きな原因は、便秘と腸内の悪玉菌の増加です。便秘を解消し、腸内細菌のバランスを整えることで、FABP2の数値を下げることは十分可能です。とはいえ、腸内には約1000種類、100兆個もの細菌が生息しています。その膨大な種類の中から、腸管細胞にダメージを与えてFABP2を血中に放出させる腸内細菌を特定するのは容易な作業ではありません。
しかし、もしその菌を特定できれば、働きを抑制する善玉菌(プロバイオティクス)を増やすことで、FABP2を減らしてパーキンソン病やレビー小体型認知症を予防できる画期的なアプローチとなるでしょう。ちなみにですが、海外の研究では、良質のしぼりたてオレンジジュースを2か月間継続して飲用したところ、FABP2の数値が減少したという報告もあります。ただし、飲用をやめると数値は元に戻ってしまうため、継続が何よりの鍵となります。
高齢化の進行に伴い、パーキンソン病をはじめとする神経変性疾患の患者数は増加傾向にあります。根本的な治療薬の開発にはまだ時間を要するのが現状です。だからこそ、まずは日々の食事と運動で便秘を予防し、腸の炎症を抑えて細菌バランスを整えること。それが将来のQOL(生活の質)を守るための、最も有効な自衛策となるのです。
「根本的な治療薬の開発にはまだ時間を要する」と語る福永氏
■前編記事から読む:患者の多くが痛みを経験する「パーキンソン病発症」のメカニズム 「腸の炎症」をきっかけに発症につながるタンパク質が過剰に作られることが判明【脳科学者が解説】
【プロフィール】
福永浩司(ふくなが・こうじ)/BRIファーマ(株)代表取締役。東北大学薬学研究科名誉教授。熊本大学医学部、東北大学薬学部で40年間にわたり脳研究に従事し1982年に脳で記憶をつくる酵素「CaMKII(カムキナーゼ2)」を発見。大学在職中は認知症の最先端研究や産学連携を推進し、開発に携わった認知症治療候補薬は2026年にフェーズ1試験を開始予定。2021年、研究成果の社会還元を目的にBRIファーマ(株)を設立。40歳からの認知症予知を可能にする血液検査の開発や、個々の特性に合わせた運動・生活習慣の提案を通じ、健康寿命の延伸を支援している。
取材・文/岩城レイ子

