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中国経済失速の懸念材料となる政策と“影の銀行問題”の行方

「影の銀行」問題などで、世界の注目を集めている中国経済。はたして今後の先行きはどうなるのか。海外投資のカリスマとして知られる、グローバルリンクアドバイザーズ代表・戸松信博氏が解説する。

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これまで世界の成長エンジンとなってきた中国経済への懸念が高まっている。その行方を占ううえでポイントは大きく2つある。

1つめが「政策」だ。習近平政権では、民衆の不満を解消すべく、格差の縮小に力をいれ、「緊縮」「安定成長」「構造改革」といった、従来の高成長路線とは一線を画す政策を打ち出している。たとえば「三公消費」と呼ばれる、飲食、外遊、公用車という政府部門の無駄遣いの削減を徹底。これによって、中国ではワインなどの高級食品や自動車などの需要が大きく落ち込むほどだという。

そのような改革は本来なら歓迎されるべきだが、中国の場合、汚職がはびこるなど、その根が深いだけに、少なくとも来年いっぱいまでは、成長にブレーキがかかる状況が続くのではないかと見ている。

そして、2つめが「影の銀行」問題である。そもそもその根幹にはリーマン・ショック後に実施した4兆元の経済対策がある。中央政府が負担したのはその3割のみで、残りは地方政府や国営企業などが銀行からの多額の融資で賄うことになった。

その後、不動産価格高騰などから当局が金融引き締めに転じると、貸出先への信用不安が顕在化し、銀行の不良債権問題が浮上。そこで、低い預金金利に不満を持つ個人投資家向けに高利回りの「理財商品」と呼ばれる金融商品が注目され、調達した資金が借り換えに充てられた。つまり、貸出先の焦げ付きリスクを銀行ではなく、投資家に負担させたわけだ。

銀行にとっては不良債権の拡大が抑制でき、手数料も入るため、販売に注力。結果、その残高は20兆元とも30兆元ともいわれる規模にまで膨らんだ。

今後、地方政府や国営企業の債務不履行が相次ぐようだと、サブプライム・ショックのように世界経済に大きなダメージを与えるという指摘まで出ている。しかし、理財商品はサブプライム関連商品のようにレバレッジが高いわけでなく、世界中の金融機関が買っているわけでもないため、そこまで甚大な影響は及ぼさないだろう、というのが私の見方だ。

ただ、当面は金融引き締めが続く公算は高く、中国の経済成長にブレーキがかかるような状況は、あと1~2年は続くのではないだろうか。

とはいえ、このような状況が日本経済にとって功を奏する可能性もある。目下のところ、中国がブレーキとなって世界的に資源価格が下落している。世界的にインフレになりにくいなか、日本でこの先円安が進んだとしても、輸入品価格が上がりにくいため、国内の物価も上がりにくいことが予想される。そうなれば、インフレを目標にする日銀の金融緩和も続けざるを得なくなり、日本株にとってはいい状況が続くといえるだろう。

「影の銀行」問題をはじめとする中国リスクが、実は日本市場を押し上げる大きな要因になるかもしれない。

※マネーポスト2013年秋号

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