マイナンバーの導入が目前に迫っているが、海外では情報漏えいによって多額の被害を被るケースも報告されている。マイナンバーで何が起こりうるのかをいまのうちに知っておこう。
多くの会社で準備不足。漏えいリスクは高い
いよいよマイナンバーがスタートする。10月から番号通知が始まり、16年1月から実際の運用が開始される。新制度の導入によって何が変わり、どこに注意をしなければいけないのか、そのポイントを解説しよう。
マイナンバーは、住所地の自治体から自宅へ簡易書留で郵送される。住民票を基に送付されるので、引っ越しをしたまま移転手続きをしていない場合には、マイナンバーを受け取れない可能性がある。郵便局で郵便物の転送手続きをしていても、マイナンバーは「転送不要」扱いで送付されるため、新しい住所には届かない。住民票の所在地と現在住んでいる場所が異なる場合には、すぐに手続きをしておこう。
マイナンバーの利用は当面、社会保険、税、災害対策の3分野に限定される。年金や年末調整の手続きで書類にマイナンバーを記入することになるわけだ。しかし、会社員の場合には、これらの手続きは会社が行っているため、会社にマイナンバーを提出することになる。いずれ会社から「マイナンバーを提出してください」という通知が来るはずだ。
しかし、多くの会社でマイナンバーを正しく利用するための体制が整っていないという。この状態のまま会社にマイナンバーを提出してしまえば、漏えいの可能性もある。
海外では多額の借金を背負わされたケースも
海外ではすでにマイナンバーを導入している国が数多くある。そして、マイナンバー流出によって被害が多発しているのも事実だ。
アメリカでは社会保障番号として、9ケタの数字が利用されている。行政サービスを受ける際の本人確認などに利用されているが、民間利用も制限されていない。そのため、マイナンバーを悪用される被害が発生している。
たとえば、なりすましによってクレジットカードとローン口座を42件作成され、高校卒業時点で150万ドルの借金を背負わされていた女性もいるという(トレンドマイクロ調べ)。
また、ひとつの番号にさまざまな個人情報が集約されることになると、情報が漏えいした場合に、プライバシーが侵害される恐れもある。将来は医療情報の紐付けも検討されており、マイナンバーが漏えいすることによって、病歴などを他人に知られてしまう可能性がある。
このような被害を防止するため、マイナンバーを流出させた場合には、厳しい罰則が設けられている。たとえば正当な理由なくマイナンバーを提供した場合には、4年以下の懲役または200万円以下の罰金が科される。これは、マイナンバーを漏らした本人だけでなく、会社も罰則の対象となる。個人情報保護法より厳しい罰則だ。
しかし、スタートが目前に迫った現在でもマイナンバー管理のための体制が整った会社は少なく、いざ運用が始まった時に情報漏えいが起きてしまう可能性が高いということだ。会社からマイナンバーの提出を求められたとき、拒否するのは難しいだろうが、少なくとも、どのような管理体制になっているのか、確認をしたほうがよさそうだ。
預金口座の紐付けで名義預金が狙われる
もうひとつ懸念されるのは、個人の資産状況をすべて国に把握されるのではないかという点だ。18年1月からは、銀行預金にマイナンバーを紐付けすることが検討されている。
当初は任意だが、21年1月からは義務付けられる予定だ。会社員の場合には、すでに収入のすべてを把握されているから大きな影響ともいえるが、資産家は注意をしておいたほうがよさそうだ。
マイナンバーの導入により、税務当局は脱税の把握がしやすくなる。とくに狙われているのは名義預金だという。これまでも、相続税の税務調査によって名義預金が発覚するケースは多い。
たとえば、25事務年度(平成25年7月から平成26年6月まで)に発覚した申告漏れのうち、現金・預金等が約4割を占めている。その多くが名義預金だと考えられる。
名義預金とは、親や祖父母が勝手に子どもや孫の名義で預金をしている口座のこと。贈与の手続きが行われていないため、相続が発生した時には相続税の対象となる。これまでは、子どもや孫名義の預金をすべて探し出すのは税務当局にも難しく、税金逃れの温床ともなっていた。
マイナンバーが導入されれば、子どもや孫のマイナンバーを入力するだけで瞬時に口座を洗い出すことができる。今後は名義預金を見つけ出すのが容易になるわけだ。
脱税はそもそも法律違反だから問題外だが、実際には贈与なのか名義預金なのかの判断は難しく、グレーゾーンのケースは多い。今後は名義預金のチェックが厳しくなることを自覚して、可能性がある場合には、贈与と認められるための証拠をしっかり残しておいたほうがよいだろう。
なお、自分の個人番号がどのように利用されているかを閲覧できるネットサービス「マイナポータル」が17年1月からスタートする。いつ、誰が、自分の個人番号にアクセスしたのかを確認できるほか、自分にあった行政サービスを紹介してもらえる「プッシュ型サービス」や自宅のパソコンから行政手続きができる「ワンストップサービス」などが利用できるようになる予定だ。
※「マネーポスト」2015年秋号に掲載
マネーポスト 2015年秋号 2015年 10/1 号 [雑誌]: 週刊ポスト 増刊