*17:00JST アイ・ピー・エス:株価は上場来高値更新、フィリピン国内で通信事業を展開する稀有な企業
アイ・ピー・エス<4390>は9月19日に更新した上場来高値を9月24日に再び上抜け、一時3,950円まで上昇した。4月以降堅調な株価推移となっていたが、7月30日に日本、フィリピン、シンガポールを結ぶ新たな国際海底ケーブルのコンソーシアム形式による共同建設に参画することを決定した開示をリリース、その後9月22日に「Candle」とのケーブル名称や、Meta、ソフトバンク等のパートナー企業等の詳細を追加開示し、株価は一段高となった。8月8日には2026年3月期第1四半期決算を発表、減収2桁増益着地と好発進となり投資家の注目度が高まっている。
まずは決算の振り返りとなるが、通期の売上高は18,000百万円(前期比17.9%増)、営業利益は5,250百万円(同18.9%増)を見込むなか、第1四半期は順調な進捗となった。主力の国際通信事業では、同社グループが使用権を保有するC2C回線と2023年に完成した国内海底ケーブルネットワーク(PDSCN)を中心とするフィリピン国内基幹網のネットワークによる回線やサービスの提供を、マニラ首都圏から地方へと引き続き展開。PDSCN完成による地方への本格展開2年目として、利益効率の良いビジネスを戦略的に見極めながら推進し、やや減収となる一方で増益を確保している。また、国内通信事業もソリューションサービスが堅調で、接続料水準の見直し継続し黒字転換した。メディカル&ヘルスケア事業は赤字幅縮小で、レーシックが若年層の取り込みを進めて回復傾向にあり、ヘルスケアは来院患者数が着実に伸長した。
続いて、国際海底ケーブル共同建設事業への参画についてだが、日本とフィリピン、シンガポールを結ぶ新たな海底通信ケーブルの共同建設事業に参画すると発表した。投資額は約190億円で、同社にとって過去最大規模となる。2028年3月の商用利用開始を予定しており、耐用年数は25年間。パートナー企業はMeta、ソフトバンクなどで、NECがサプライヤーとして建設を手掛ける。所有分の一部使用権を25年間提供する長期契約の決定も発表しており、契約額は約65億円にのぼる。完成前から契約がなされているということは需要があるからに他ならないが、建設進行基準により売上の計上は2028年の3月以降となる。資金計画については、株式会社みずほ銀行をアレンジャーとするシンジケート団からの上限約120億円の融資枠を設定した。同国際海底ケーブルの建設により、フィリピンおよび日本におけるデータハブ化や AI インフラの整備、経済安全保障の強化への貢献も期待されており、関係するグローバルテック企業や大手通信事業者、ケーブルテレビ事業者、ISP 事業者、法人・個人顧客、フィリピンの政府機関・自治体にとっても大きなメリットとなることが見込まれる。社会的価値や経済安全保障への貢献とともに、アジアにおける事業基盤を飛躍的に強化し、持続的な成長と企業価値の向上を実現する極めて戦略的な投資で、新たな成長段階に向けた重要な一歩として極めて重要なリリースだった。
ただ、新たな国際海底ケーブルの共同建設への参画に注目が集まりがちだが、Baler陸揚局建設プロジェクトも順調に進捗している。短中期的にはこちらの方が投資家としては注目しておきたいプロジェクトとなろう。Baler陸揚局には、最大4系統の国際海底ケーブルが接続可能となり、Candleが接続する。Candleのアジア側エントリーポイントとなり、フィリピンのみならず、急成長を続ける東南アジア全域のデジタルハブとして、地政学的にも戦略的な意味を持つ。PDSCNとのゲートウェイとしても機能し、国際通信とフィリピン全土のネットワークをつなぐ結節点となる。陸揚局を自社で建設・保有することは、国際通信インフラへの戦略的投資となり、初期投資に対して中長期的なリターンが見込まれるストック型インフラ収益事業となる。今後AIの進化により求められる次世代AIデータセンターの多くは、低遅延・大容量を実現する高品質な国際通信インフラとの直接接続が不可欠で、Baler 陸揚局はこのニーズを満たし、「オープンアクセス陸揚局+AI データセンター」の最先端モデルとして、フィリピンおよびアジア太平洋地域における新たなテクノロジー拠点の中核を担うポテンシャルを持っている。Baler陸揚局は来年完成予定で、フィリピン初のオープンアクセス陸揚局となり、前受金モデルを適用すれば2027年3月期に数字上のインパクトがある。
同社は設立間もない時期から長い間、フィリピン人マーケットに積極的に関わってきた。主力の国際通信事業では、フィリピンを主たる事業地域として、同国の通信会社、ケーブルテレビ事業者などに自社で敷設した海底ケーブル等の回線や他社調達の回線を提供、また法人向けインターネット接続サービスも展開している。フィリピンの通信業界は、大手通信事業者2社(PLDT社、Globe社)の寡占状態で、事業者は競争力のない非常に高額な回線の提供しか受けられなかった。この環境下で、同社は参入を構想し、通信事業のライセンスとマニラ市内までの通信回線を持っていたフィリピン国内企業の回線を借り受け、国際区間と国内区間をつなぎ合わせて必要な全区間を用意してマニラ首都圏地域の事業者向けの提供に成功した背景がある。売上高は顧客数の増加に伴い積み上がっていくストック型ビジネスの要素があり、コストは主に通信回線の減価償却費で固定費のため、限界利益率の高い収益構造となっている。
同社は、フィリピンに特化した通信インフラや医療関連ビジネスという日本国内での競合が見当たらない事業を展開している。フィリピンは、公用語が英語であるため世界のBPO拠点となっており、生産年齢人口割合が今後更に増加する人口ボーナス期の到来により、更なる経済成長が期待されている。ASEAN主要国の中でも、フィリピンの予想GDP成長率はトップクラスで、フィリピン国内の経済政策では政府がデジタルインフラの整備を重点施策として進めており、デジタルインフラ関連のビジネスチャンスが本格化している。通信、鉄道、高速道路、空港、運送については、外国資本による100%投資が可能となっているようだ。一方で、フィリピンのインターネット速度は、アジア主要国の中では下位となっており、依然として改善の余地がある。地域別インターネット普及率も地域間格差が大きく、フィリピン政府機関(DICT)の重点施策として通信インフラの普及が進められている。
9月18日には、同社とフィリピンで電気通信事業を展開する連結子会社が高品質でセキュアな政府ネットワークの構築に関して同国の情報通信技術省と基本合意書を締結したと発表している。基本合意では、フィリピンの国家ブロードバンド計画で定められた国内外の接続に関する目標の強化と早期達成を狙うほか、ネットワークの回復力と冗長性の強化に向け政府と民間セクターの間のインフラ協力を促進。フィリピンにおけるサイバーセキュリティーの取り組みも後押ししていくようだ。
総じて、フィリピンは米中対立といった地政学リスクを背景に、地理的なメリットからデータセンターの投資が活発化するなど国際通信のハブとしての注目も高まっている。フィリピン国内でのデジタルインフラに対するニーズが今後益々増加するなか、フィリピン・日本政府が絡む期待も一部背負っている。2025年10月1日には、Baler陸揚局建設プロジェクトに関し、株式会社国際協力銀行(JBIC)が3百万米ドルの融資枠を設定したと発表した。同プロジェクトやCandle の公表に先立つ2025年4月 29日に開催された日・フィリピン首脳会談では、同社グループが日本企業としてフィリピンで海底ケーブル事業に参画中であることを踏まえ、両国の首脳が情報通信分野における官民連携を一層強化していく方針で一致した経緯があり、官民双方からの強固なサポートを受けて、同プロジェクトが推進される。
Baler陸揚局建設プロジェクト、国際海底ケーブルの共同建設、フィリピンにおけるサイバーセキュリティーの取り組みへの参入、と注目材料がそろう中、業績の2桁成長は容易に想定できそうで、今後の中長期的な成長に期待しておきたい。
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