*10:23JST エネルギーが戦略的結節点へ:地経学的競争の中で変化する中国の地政学的空間(1)【中国問題グローバル研究所】
◇以下、中国問題グローバル研究所のホームページでも配信している(※1)陳建甫博士の考察を2回に渡ってお届けする。
※この論考は2025年3月5日の<From Energy to Strategic Nodes: Rethinking China’s Geopolitical Space in an Era of Geoeconomic Competition>(※2)の翻訳です。
1.エネルギー地政学:サプライチェーン再編に伴う戦略的圧力
世界のエネルギー情勢では、米国政府が発端となった2つの動きが大きな注目を集めている。ベネズエラでは、ニコラス・マドゥロ大統領の逮捕とその後の政権移行を受けて、エネルギー政策と石油輸出戦略の再考を迫られている。米国政府は政治的圧力と経済的影響力の両方を用いて、今後の石油市場でのベネズエラの方向性に影響を及ぼそうとしていると考えられる。
一方で、米国はイラン産原油輸出への制裁を強化し、2月28日にはイランの戦略的施設を標的にイスラエルと合同で軍事作戦を実施した。これらの動きは別々の地政学的危機に対応したものに見えるが、その影響は二国間の紛争をはるかに超え、世界のエネルギー市場に広範な影響を及ぼす。
現在の情勢は単なる制裁や軍事作戦にとどまらず、世界のエネルギー管理や金融決済システムを根底から再編する動きであり、地経学的な制度的競争が繰り広げられる場となっている。主要国は、エネルギー供給網、金融取引、市場アクセスのあり方を変えることで世界の石油供給網に対する影響力を次第に強めている。その結果、エネルギー市場は地政学的影響力と経済的手段が交差する戦略的舞台になりつつある。
中国の地政学上、エネルギー安全保障は長年にわたり構造的脆弱性をはらんできた。同国は依然として輸入エネルギー(特に中東産の原油と液化天然ガス)への依存度が高く、主要な海上輸送路はマラッカ海峡などの戦略的要衝を通過せざるを得ない。米国とその同盟国が金融制裁、船舶規制、決済システムを駆使してエネルギー流通に干渉すれば、中国のエネルギー供給網は大きな圧力に直面するおそれがある。
こうした動きは、学術的に「地経学」と呼ばれる概念、つまり経済的・制度的手段を用いて戦略目標を達成する手法だ。エドワード・ルトワックが1990年代初頭に指摘したように、大国間の競争は軍事的対決から経済・制度的領域へ徐々に移行しつつある。エネルギー市場や金融システムに介入する最近の米国の動きは、まさにこの種の市場や制度を通じた戦力展開を反映している。
しかし、これらの動きをエネルギー供給の視点だけで解釈すると、現代の地経学的競争の広範なダイナミズムを単純化し過ぎる危険がある。技術的サプライチェーン、金融インフラ、制度的ルール策定とも深く関わっているからだ。
2.一帯一路と戦略的深度:エネルギー回廊から制度的ネットワークへ
中国の一帯一路構想(BRI)の根底にある動機の一つは、エネルギーと資源へのアクセスの不確実性を軽減したいという願望だ。中央アジアの天然ガスパイプラインや中国・パキスタン経済回廊から、アフリカ・中東全域の港湾投資に至るまで、中国政府は資源の獲得と輸送のための経路を多様化している。
これらのインフラプロジェクトは単なる経済協力ではない。むしろ、中国の戦略的深度を拡大するための長期的な地経学的戦略と見るべきだ。
この枠組みの中では、BRIは単なるインフラ投資計画ではなく、地域を超えてつながる新たな構造を構築しようとする試みだ。港湾、鉄道、エネルギーインフラ、経済協定を通じて、中国はユーラシアとグローバルサウスにまたがるインフラネットワークを段階的に構築しようとしており、このネットワークによって特定の一つの海上航路への依存を軽減しようとしている。
したがって、制度やネットワークの力という観点で見れば、中国の戦略的空間は縮小しているとは言えず、むしろ構造的な再編の過程にある。そこから浮かび上がるのは、中国の戦略的空間の単純な縮小ではなく、世界経済の秩序を定義する2つの異なるモデルによる競争だ。
一方では米国が、金融システム、技術管理、制度的同盟を通じて既存の秩序の強化を図っている。他方では中国が、インフラと資源投資を通じて別の経済連携を構築している。
ロバート・ブラックウィルとジェニファー・ハリスが指摘するように、21世紀の国家運営では経済的手段の重要性がますます高まっている。エネルギー、貿易、金融システムはもはや単なる経済問題ではなく、国力の延長線上にあるのだ。
3.中国の政策動向:拡大重視グローバル化から安全保障重視のグローバル化へ
中国の戦略的空間の変化を理解するには、中国政府による国内政策の過程にも細心の注意を払う必要がある。近年、中国の政策論議では、特に産業サプライチェーン、先端技術、エネルギーシステムにおいて、安全保障、レジリエンス、自立自強を強調する傾向が強まっている。
これらの政策シグナルは、中国政府が国家安全保障上の問題を経済発展戦略に密接に組み込もうとしていることを示唆している。
地政学的観点からは、この変化は外部圧力への対応と理解できる。米国が中国のテクノロジー企業や重要サプライチェーン技術への規制を強めたことを受けて、中国政府は国内の競争力を強化する決意を固めたのだ。
このように中国のグローバル化戦略は、グローバル市場に深く食い込む従来のモデルから、サプライチェーンのレジリエンスと戦略的自律を優先する安全保障重視のグローバル化と呼ぶべきモデルに進化している。
この変化は、中国の対外投資パターンからも見て取れる。エネルギー・鉱物・戦略的資源への投資が増加する一方、リスクの高い特定の金融事業は減少している。こうした動きは、競争が激化する地政学的環境下で戦略的深度を維持するために、中国政府がグローバル経済での姿勢を修正していることを示している。
この観点からすれば、中国の戦略的空間が単に縮小しているとする主張は誤解を招きかねない。中国の戦略モデルそのものが変容を遂げていると解釈する方が正確だ。
「エネルギーが戦略的結節点へ:地経学的競争の中で変化する中国の地政学的空間(2)【中国問題グローバル研究所】」に続く。
ホルムズ海峡と石油 (写真:ロイター/アフロ)
(※1)https://grici.or.jp/
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