人は常に合理的な行動をとるとは限らず、時に説明のつかない行動に出るもの。そんな“ありのままの人間”が動かす経済や金融の実態を読み解くのが「行動経済学」だ。今起きている旬なニュースを切り取り、その背景や人々の心理を、行動経済学の第一人者である法政大学大学院教授・真壁昭夫氏が解説するシリーズ「行動経済学で読み解く金融市場の今」。第25回は、コロナ禍であぶり出された日本企業の課題について。
* * *
コロナ禍で日本企業の好不調が浮き彫りになっている。ワクチン接種で先行する米国景気の回復に伴って輸出などが上向く一方で、依然として人流が制限されているため国内サービス業などは大きく落ち込んでおり、「K字回復」がより際立つ格好だ。
もちろん業績が下がった企業にとって、コロナの影響は無視できないが、「コロナだからダメになった」わけではなく、長年にわたり日本企業が抱えてきた課題がコロナによってあぶり出された面も大きい。
なにしろ日本は1990年代のバブル崩壊後以降、ほとんど成長できていないのだ。日本の名目GDP(国内総生産)は、バブル崩壊後の1997年度に542兆円となったが、それをかろうじて上回るのは約20年後の2016年度まで待たなければならない。2019年度には558兆円に達したが、2020年度には536兆円に萎み、大きく増えてはいない。
1人当たりの平均給与(国税庁「民間給与実態統計調査」)は、1997年の467万円をピークにずるずると下がり始め、2019年で436万円となっている。株価を見ても、日経平均株価が今年に入って一時3万円台を回復したとはいえ、1989年末の3万8915円には及ばない。米国をはじめ、世界の主要国の株式市場では過去最高値更新が相次いでいるのに、日本だけが取り残されている格好なのだ。
これらの指標を見ると、日本はバブル崩壊後からまさに「失われた30年」だったことが明らかと言えるだろう。
なぜ日本はこんなにも長きにわたってトンネルを抜け出せないでいるのか。行動経済学の観点で言えば、政治や社会の仕組みが現状のままであまり変化しようとしない「現状維持バイアス」に覆われていることがひとつ。そして、社会全体に“まだまだこのままでいけるはず”という「心の慣性の法則」が働いてきたことが挙げられる。かつて日本は、米国に次ぐ世界第2位の経済大国だったが、2010年に中国に抜かれ第3位に転落。このまま行けば、これまで引き離していたはずの第4位のドイツにも追いつかれるだろう。