相手を説得することが壁打ちの目的ではない
相手が目上の人であっても、自分より経験豊富な人であっても、必ずしもあなたより正解に近い答えを持っているとは限りません。いやむしろ、(特に新規性の高いアイデアについては)そこまでそのテーマについて調べたり考えたりしてきたあなたの方が、正解に近いところに近づけていると捉えた方が自然でしょう。
そんなあなたの問いかけに対して初見の相手が返してくる言葉が的を射ていて、すぐに「なるほど!」と感心できることは少ないはずです。逆に「そうじゃなくて……」と言い返したくなることも多いでしょう。
もちろん、共通認識として揃えておかないと対話が成り立たなくなるようなことは、その場で訂正したり補足したりする必要がありますが、相手の意見が自分の意見と異なっていたからといって、その場で脊髄反射的に反論したり、どちらが正しいかと議論に進んでしまったりすることは、壁打ちの趣旨に反するのでお勧めしません。
相手が豊富な知識や経験を持っていれば、活発な議論を通じて高い次元の解決策に至ることもあります。しかし、多くの場合、あなたの方がそのテーマについてより深く考え、知識も持っているため、議論モードに入ると相手を言い負かしてしまいがちです。
ここで注意したいのは、相手を説得することが壁打ちの目的ではないということです。「提案を承認してもらう」「依頼を受けてもらう」といった別の目的であれば、説得は有効かもしれません。しかし、壁打ちで本当に価値のある気づきを得るためには、異なるアプローチが必要です。
「すごい壁打ち」で重要なのは、相手から異なる意見が出てきたときの対応です。
・「なぜそう思うのか?」と、相手の考えの背景を探る
・現状認識の違いを見つける
・前提条件の捉え方の違いを理解する
・価値観の違いを言語化する
相手と自分でどこに違いがあるかを丁寧に解き明かすことで、あなたのアイデアをより強固なものにする貴重な材料が得られるのです。
■第1回記事:《「良いアイデアは“自分と遠い人”との雑談から生まれる」 150社以上の新規事業立ち上げに携わったコンサルタントが勧める「新鮮な気づき」をもたらす実践法》から読む
これまで150社、3000案件、6000人以上の新規事業検討に伴走し支援してきた石川明氏
※石川明著『すごい壁打ち』(サンマーク出版)より一部抜粋・再構成
【プロフィール】石川明(いしかわ・あきら)/株式会社インキュベータ代表取締役。1988年上智大学文学部社会学科卒業後、リクルートに入社。2000年にリクルートの社員として、総合情報サイト「オールアバウト」社の創業に携わり、事業部長、編集長などを務める。2010年に独立起業。大手企業を中心に、新規事業の創出、新規事業を生み出す社内の仕組みづくりに携わり、これまで150社、3000案件、6000人以上の新規事業検討に伴走し支援してきた。「壁打ち」の相手になって新規事業の起案者の話を聴く回数は年間1000回を超える。著書に『Deep Skill』(ダイヤモンド社)、『はじめての社内起業』(ユーキャン学び出版)、『新規事業ワークブック』(総合法令出版)がある。