*13:04JST IGS Research Memo(4):「非認知能力」の評価システムが特徴、学生から社会人まで幅広く対応(2)
■Institution for a Global Society<4265>の事業概要
2. 教育事業
教育事業では、AIとデータサイエンスを活用した次世代型の人材育成支援を軸として展開している。特に、非認知能力、探究力、グローバル人材として必要な資質など、従来の学力偏重型教育では測定が困難であった能力を可視化し、育成する点に強みを持つ。
同事業の中核サービスは「Ai GROW」である。これは同社がビジネス領域で展開する人材評価ツール「GROW360」の知見を応用し、学校及び教育機関向けに開発された。360度評価と気質診断を組み合わせ、生徒の能力、特性、教育活動の成果を多面的に分析・可視化することが可能である。評価結果はカリキュラム設計、学級運営、進路指導などの教育実務に活用され、教員の意思決定を支援している。また、評価基準が「GROW360」と共通しており、子どもから社会人まで一貫した尺度で測定できる点は教育と社会との橋渡しを意識した設計思想を体現している。
「Ai GROW」は年払いのサブスクリプションモデルで提供され、2024年3月末時点で24.1万人の登録アカウントと、累計5,900万件の他者評価データが蓄積されている。また、「Ai GROW」をベースとしてJTBと共同開発した「J’s GROW」により、学校行事や探究活動における学習効果の測定にも対応し、教育活動全体の質の向上を後押ししている。GIGAスクール構想によるICT環境の整備を背景に、タブレットによる受検が可能な「Ai GROW」の導入が進み、教員の定性評価業務の効率化にも寄与している。2025年3月末時点の「Ai GROW」の顧客数は前期比88校増の333校に達した。
また、動画教材コンテンツとして「GROW Academy」も提供しており、アニメ形式で構成された動画は生徒の生活場面を題材にしながら、実社会で求められるコンピテンシーの習得を支援している。指導案やワークシートも整備されており、生徒の人数にかかわらず学校単位で導入可能である。また、「Ai GROW」と併用することにより、コンピテンシーをベースとした教育が実現し、新学習指導要領にも適合する内容となっている。
同社の教育事業における差別化の要因は複数ある。第一に、同社は社会人データをもとに実社会での活躍につながる行動特性や能力を教育段階で可視化する独自の評価技術を有している。第二に、多言語対応により地域や国境を超えて同一基準での評価が可能であり、グローバル比較にも対応している点は国際機関や研究機関からも注目される水準にある。第三に、教員のニーズに即した管理画面を提供しており、データの解釈・活用において現場の負担を最小限に抑える工夫がなされている。
同社は従来の学校法人への直接提供に加え、2020年以降、自治体や教育委員会との連携も本格化させており、官民双方のチャネルを通じた普及が進んでいる。また、パートナーシップによる提供形態の柔軟性も事業成長を支える要因となっている。同社の教育事業は、AIによる個別最適化と実社会との接続を両立させる革新的な教育ソリューションを提供しており、日本の教育現場の課題解決と次世代人材の育成に貢献している。
3. プラットフォーム/Web3事業
プラットフォーム/Web3事業は、Web3領域に関するサービスを展開している。2023年4月に暗号資産関連事業を本格化するために同社100%子会社のONGAESHI Corporationを設立し、同年10月には人材育成と採用を一体化した新サービス「ONGAESHIプロジェクト」を立ち上げた。
同プロジェクトは、Web3技術を活用した次世代型の人材育成プラットフォームとして設計されており、個人・企業・地域社会が相互に連携しながら人的資本の形成と社会貢献を実現する新しいモデルである。中核にあるのは、リスキリングを通じたキャリアアップに意欲を持つ潜在的な転職希望層に対し、無償で質の高い教育機会を提供する仕組みである。同プロジェクトの特徴は、従来の中央集権型サービスとは異なり、Web3.0技術により個人情報の保護を担保しつつ、利用者一人ひとりが自己の学習履歴やスキルを自律的に管理及び活用できる点にある。また、分散型自律組織(DAO)の構想に基づき、運営や意思決定に関してもユーザーコミュニティが主体的に関与できる設計となっており、透明性と信頼性を高めている。
同プロジェクトでは、教育を単なる「コスト」ではなく「人的資本への投資」として位置付けており、個人だけでなく企業や自治体などの多様な主体による投資を促進する。このような投資を通じて、労働市場の構造的課題であるスキルミスマッチや人材不足の解消を図ると同時に、社会的な連帯と共創を促すプラットフォームとしての役割を果たしている。同プロジェクトは海外展開も視野に入れており、既にシンガポール法人BOUNDLESSEDU PTE.LTD(以下、BE)との連携を通じたシステム供与が実現している。今後は、国内外での導入企業や自治体との協業を通じて、Web3時代における新しい人材育成のスタンダードを構築していく見通しである。
また、同社が培ってきたWeb3技術や運用ノウハウを活用し、企業の新規事業の立ち上げを支援するコンサルティングサービスの提供も開始しており、同社のWeb3領域におけるプレゼンス拡大と収益機会の創出が期待される。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 吉林拓馬)
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