*11:07JST アジア投資 Research Memo(7):メガソーラープロジェクトが過去数期の収益安定化に貢献
■日本アジア投資<8518>の業績推移
1. 業績を見るためのポイント
一般の事業会社の売上高に当たるものが営業収益である。これは、投資開発事業における回収額(AMフィー、プロジェクト売却高、運用収入等)や投資運用事業における回収額(AMフィー、株式売却高、配当収入等)に加え、ファンド・プラットフォーム事業における事務受託報酬などによって構成される。しかし、その大部分を占めるプロジェクト及び株式の売却高は、投資額(売却原価)を上回って初めて利益が創出されるものである。そのため、営業収益が増えたからといって、必ずしも業績向上を意味するものではないため、留意が必要である。
したがって同社の指標は、安定収益源であるAMフィー・事務受託報酬に加え、売却高から売却原価などを差し引いた投資損益(実現キャピタルゲイン)、そしてインカムゲイン(プロジェクト運用損益及び配当収入等など)を合算した営業総利益に注目するのが妥当である。ただし、営業総利益は、投資先の業績悪化や株式市場の低迷による「営業投資有価証券評価損」や「投資損失引当金繰入額」を反映するため、これらが期間損益の大きな下振れ要因となってきたことにも留意が必要である。
ただし、今後はファンドビジネスの拡大による安定収益の底上げを図る方針であり、ファンド業務におけるAMフィーや事務受託報酬の比重が高まる一方、投資業務における実現キャピタルゲインやインカムゲインは比重を下げるとともに、「営業投資有価証券評価損」や「投資損失引当金繰入額」といった業績の下振れ要因も解消されることが想定される。
2. 過去の業績推移
過去の業績(従来連結基準)を振り返ると、リーマンショックによる世界同時不況や東日本大震災、為替相場の変動などによる影響を受けながら不安定な状況で推移してきた。2016年3月期以降は、メガソーラープロジェクトによる収益貢献等により、7期連続の黒字決算を達成したものの、2023年3月期及び2024年3月期は株式売却益の下振れや評価損・引当金の計上などにより2期連続で最終損失を計上した。
ここ数年の営業総利益の推移では、祖業である投資運用事業(旧 PE投資に相当)における株式売却のタイミングのずれによる影響を、投資開発事業(旧 プロジェクト投資に相当)におけるプロジェクト売却でカバーし、比較的安定した収益を上げてきた。これは、投資資産の中身がリーマンショック後に積み上げた良質な資産や、再生可能エネルギー、障がい者グループホーム等のプロジェクト投資資産へと入れ替わったことで、従来のような投資損益(実現キャピタルゲインに評価損及び投資損失引当金繰入額を加味したもの)の不安定な状況から脱却できたことを示している。なお、2024年3月期に大きく落ち込んだのは、中華圏のファンドにかかる評価損・引当金の計上によるものである。安定収益であるAMフィー(特に投資運用事業)は、ファンド運用残高の縮小に伴い減少傾向にあったが、今後は投資開発事業及び投資運用事業のAUM拡大により、着実に積み上げる方向性を描いている。
一方、リーマンショックの影響等による業績の落ち込みと財務状況の悪化を受け、財務体質の改善と収益力の強化に取り組んできた。これにより、有利子負債残高(借入金・社債、新株予約権付社債)は年々減少し、販管費(特に人件費や賃借料)の削減も進んだ。有利子負債残高は2018年3月期の11,954百万円から2025年3月期には3,495百万円と約71%の削減を実現した。販管費もおおむね縮小傾向をたどっている。
また、有利子負債の削減に伴い、財務基盤の安定性を示す自己資本比率も大幅に改善した。総資産が縮小するなかでも、新株予約権の行使や内部留保、第三者割当増資により改善が続き、2025年3月期は64.6%の水準に達した。
■株主還元
配当は当面見送られる可能性大も、将来の復配に期待
同社は、業績の悪化に伴う累積損失を計上していることから、2009年3月期以降、配当の実績はない。2025年3月に実施した減資、資本準備金の減額、剰余金の処分により累積損失は解消されたものの、今後も有利子負債の削減による財務体質の改善と安定収益の拡大に向けた投資に取り組む方針であることから、しばらくは配当という形での株主還元は見送られる可能性が高いと弊社では見ている。ただ、ファンドビジネスの拡大とともに安定収益の底上げが進んでくれば、将来的には復配はもちろん、安定的な配当が可能になるものと期待される。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 柴田郁夫)
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