需給が重ければ株価が急騰しても利確されやすい
ここで、トヨタ自動車株の需給を例に見てみましょう。
トヨタは、7月22日時点で信用倍率が7.36倍と、かなり高い水準にあります。これは、信用買残が信用売残の7.36倍に達しているということ。つまり、将来的な売り圧力が高く、需給が「重たい」と判断されます。
しかし、ここで注意すべきは「一時点の倍率だけを見ても正確な判断は難しい」という点です。重要なのは、時系列での変化を見ること。信用買残の推移と倍率を並べて確認することで、より正確な需給の読み取りが可能になります。
実際にトヨタのデータを時系列で追ってみると、年初時点では信用買残が約1400万株、信用倍率は5.91倍でした。一方、直近(7月第3週)では、信用買残が約2100万株、信用倍率は7.36倍に増加しています。つまり、買いポジションの絶対量も増えており、その上で倍率も高止まりしている状況です。
これらの情報から、トヨタの需給は「重い」と判断でき、急騰した場合には利益確定売りが出やすいと予想されます。
トヨタの日足チャート(TradingViewより著者作成)
実際にトヨタの株価は、関税交渉の合意が発表された7月23日に+14.34%の急騰を見せましたが、翌日から株価は伸び悩みが見られます。この動きは、信用買いからの利益確定の動きが含まれている可能性が高いと思われます。
株価の変動要因をより立体的に捉える
とはいえ、信用倍率はあくまでも需給分析の「一つの視点」にすぎません。株価の方向性は、現物株を含めた市場全体の売買動向によって決まります。
また、今回の分析には関税交渉合意直後の週がまだ反映されておらず、次週以降に発表される信用残のデータが、今後の動きを読み解くヒントになる可能性もあります。今回のように、インパクトの大きいニュースや決算発表によって、株価の方向性とともに、需給のバランスが一気に変化することもあるでしょう。
こうしたデータを日頃からウォッチしておくことで、株価の変動要因をより立体的に捉えることができ、結果としてリスク管理にもつながっていきます。
今後も、関税交渉や金融政策の行方によって、株価のボラティリティが高まる局面が続く可能性があります。だからこそ、目先の値動きだけにとらわれず、冷静に需給と向き合う姿勢が、投資家にとって大切なスタンスとなるのではないでしょうか。
【プロフィール】
森口亮(もりぐち・まこと)/個人投資家、投資系YouTuber。1983年、埼玉県生まれ。元美容師。「Excelで決算数値を管理して、有望な成長株を中・長期的に狙う」という手法で資産を10倍に。その後も着実に資産を増やしている。著書に『1日5分の分析から月13万円を稼ぐExcel株投資』(KADOKAWA)がある。YouTube「毎日チャート分析ちゃんねる」やnote(https://note.com/morip)を日々更新中。
森口亮(もりぐち・まこと)/個人投資家、投資系YouTuber。「Excelで決算数値を管理して、有望な成長株を中・長期的に狙う」という手法で資産を10倍に。その後も着実に資産を増やしている