桐谷広人さん(右)は4月のトランプ関税ショックにどう対応したのか(Getty Images、時事通信フォト)
2025年8月には日経平均株価が史上最高値を更新。日本の株式市場に弾みが出てきたように見える。つい4か月ほど前はトランプ関税ショックで市場は揺れていたが、景色は大きく変わってきている。そうした相場の動きに、投資家はどう対応すればいいのか。「株主優待の桐谷さん」として知られる投資家でプロ棋士の桐谷広人氏は「株は安い時に買うのがいい」と話し、独自の買い方を確立している。波瀾万丈の投資遍歴を持つ桐谷氏はトランプショックにどう対応したのか。
桐谷氏はバブル景気前夜の1984年に株式投資を始め、2005年12月には約3億円の資産を築いていた。ところが、2006年以降、ライブドア・ショック、サブプライム・ショック、リーマン・ショックが続き、資産は5000万円弱まで激減。そこで救いとなったのが株主優待銘柄だった。
株価が下がった株主優待のある銘柄を手元に残しておいたところ、優待品が次々と届いたことがその後の投資スタンスにつながった。優待の食品などで毎日をしのいでいるうちに、2012年12月に安倍政権が誕生。アベノミクスの追い風に乗ることもできて、現在、株式投資で築いた資産だけで約6億円に上る。
トランプ関税ショック暴落相場で53銘柄を買う
そうした経験を経て、「暴落は買いのチャンス」と公言する桐谷さん。2025年4月のトランプ関税ショックの暴落相場でも53銘柄を購入したと明かす。桐谷氏は「私の経験上、年初来安値の株を買っておくと、さらに株価が下がることもありますが、長い目で見ればそのあたりで底値をつけて、反発していくことも多いですね。基本的には、年初来安値付近に指値を入れて買うようにしています」と話す。今年4月も年初来安値や上場来安値の付近に指値を入れていたところ、市場全体の暴落の余波で次々と約定していったそうだ。
2024年8月5日の「令和のブラックマンデー」と称される大暴落相場でも約20銘柄を買うなど、どんな局面でも「安く買う」を徹底。その後、資産は膨らんでいる。そんな桐谷氏にさらに売買の手法を細かく質問すると、意外な言葉が返ってきた。
「私は株の売買が下手だから優待株(投資)なんです。下手な人間に売買の仕方を聞いてもしようがないと思うんですよね。私は安い時に優待株を買うスタンス。売買はするけれども、すぐに結果を出そうと思っていません。株価が上がるのに1年ぐらいかかってもいいかなと思っています。優待があれば、株価が上がるまでじっくり待てます」(桐谷氏)
損切りをしない方針も貫く。20年以上前に株価530円で買った大戸屋ホールディングス(東京スタンダード・2705)は株価が大きく下落したこともあったが、保有を続けた結果、2025年8月時点で5300円台と10倍株(テンバガー)を達成している。
安く買って長く持ち続ける――。シンプルだが、桐谷氏自身の長年の投資経験に裏打ちされた手法と考え方に学ぶことは多そうだ。
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【プロフィール】
桐谷広人(きりたに・ひろと)/1949年生まれ、広島県出身。個人投資家。現役プロ棋士時代の1984年から株式投資を始め、「財テク棋士」と呼ばれる。バブル崩壊、ライブドア・ショック、サブプライム・ショック、リーマン・ショックと様々な相場も経験。優待投資家として注目を集め、『月曜から夜ふかし』(日本テレビ系)などテレビ出演で全国的に大人気に。現在、優待と配当で賄う生活を楽しみながら、各種メディア、講演などで活躍中。株式投資で築いた資産は2025年時点で約6億円。
取材・文/上田千春