*12:08JST タムロン Research Memo(8):財務戦略の強化と成長分野への積極投資
■タムロン<7740>の今後の見通し
(4) 財務戦略
財務戦略としては、「適切な資本構成」と「株主還元政策の強化」を進めていく。前者については、財務安全性を確保したうえで手元資金を活用し、効率的な経営を実現していく。経営指標として、自己資本比率は75%(2024年12月期末80.6%)※1を目安に段階的に低減を図り、手元流動性は月商3ヶ月分程度(2024年12月期実績5.2ヶ月分)※2を目安に資金配分を行っていく考えだ。
※1 精密機器業界は技術革新リスクが高く、かつ格付A-を取得できうる財務体質の保持の観点より75%程度を目安とした。
※2 グローバル展開するメーカーとして、地政学的リスクを含む不測の事態等への備えの必要性もあり、月商3ヶ月分を手元流動性の目安として設定した。
2024年12月期から3期間累計のキャッシュアロケーションについて見ると、キャッシュインについては営業キャッシュ・フローで695億円、手元資金の活用で80億円、負債活用で70億円の合計845億円となる。一方、それに対応するキャッシュアウトは研究開発費225億円、設備投資175億円、戦略投資180億円、株主還元265億円となる。
研究開発における新規分野の主な開発テーマとしては、人工衛星搭載用光学系「空間光通信向け光学技術」や「スタートラッカー※向け光学技術」、工業用に用いられる高出力レーザー用光学技術、広範囲の眼底撮影が可能な超広角眼底カメラ、フルネルレンズの赤外線カメラ技術などがある。これら新規分野についてはサンプル出荷を進めながら製品化を目指しており、次期中期経営計画で売上目標を明示できるよう開発に注力している。新規分野事業については長期ビジョンで売上高100億円を目標に掲げ、社長自らが先頭に立って育成に取り組んでいるだけに、今後の動向が注目される。
※ スタートラッカー(Star Tracker:恒星姿勢センサ)は、人工衛星等に使用される姿勢センサ。高感度カメラで宇宙空間を撮影した画像から恒星を識別し、その配置から人工衛星の向きや角度を計算し、姿勢制御に用いる。
戦略投資にはM&A(アライアンス含む)や、オープンイノベーションによる投資が含まれる。M&Aの対象としては、FA分野や医療・ヘルスケア分野などが挙げられ、事業拡大を目的とした投資となる。たとえば、FA分野についてはレンズの種類が幅広く、同社が開発していない特殊技術が必要なニッチな領域も多い。こうしたレンズを低コストで作る技術を持つ企業がM&Aの対象となる。また開発テーマの早期事業化に資するM&Aやアライアンスも視野に入れており、ベンチャーキャピタルへの出資やマプリィへの出資もその一環となる。
■株主還元策
総還元性向60%程度を目安に累進配当と自己株式取得を実施
同社は2026年12月期までの中期経営計画期間中の株主還元方針として、「長期的視野での経営体質強化及び新事業展開等を図るための研究開発や設備投資等を勘案するとともに、業績に応じた利益配分に努め、配当性向40%程度の継続的な配当を行う方針」としているほか、安定配当面を強化し、1株当たり年間配当金の下限額を従前の12.5円から20円※に引き上げた。また、総還元性向については60%程度を目安としており、配当性向で40%、自己株式取得で20%としている。
※ 2025年7月1日を効力発生日として1:4の株式分割を実施しており、株式分割後の下限額。
同方針に基づき、2025年12月期の1株当たり配当金は前期比1.25円増配の36.25円(配当性向40.3%)と5期連続の増配を予定している。自己株式取得についても2025年2月に3,980百万円(100万株)を実施しており、総還元性向では68.0%となる見通しだ。取得した株式は全株消却する方針となっており、2025年5月には発行済株式総数の7.17%に相当する330万株の自己株消却を実施している。また、株式の流動性向上と投資家層の拡大を目的に、2025年7月1日を効力発生日として1対4の株式分割を実施した。2年連続での株式分割となり、株主還元に積極的な企業として注目される。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 佐藤 譲)
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