全国に広がる下水道事業経営危機と財政破綻の兆し
下水道の整備が進んだことで、快適で衛生的な生活環境が広がりました。しかしその一方で、整備された施設を維持・更新していくための財政的負担が、自治体に重くのしかかっています。とくに地方都市や人口減少が進む地域では、使用料収入が伸び悩む一方で、老朽化した施設の更新費用がかさみ、経営は年々厳しさを増しています。
こうした中で、赤字を放置していると、いずれは自治体全体の財政を圧迫し、ほかの行政サービスにも影響が及びかねません。
岩手県北上市の事例は、比較的早期に手を打てた例ですが、同様の問題を抱えながら未対応のまま推移している自治体は少なくありません。とくに財政基盤が弱い自治体では、下水道事業が財政全体を圧迫し、最終的には「財政破綻」に至るリスクすらあるのです。
2006年に財政破綻した北海道夕張市は、全国の自治体に大きな衝撃を与えました。要因は、石炭産業の衰退、過大な観光投資、人口減少などが複合的に絡み合った結果ですが、その1つに下水道がありました。(北上市で下水道事業の改革を行った同市水道課の)菊池明敏さんは、当時すべての早期健全化団体(財政状況が悪化し、財政健全化を策定・実行する必要がある地方公共団体)の決算書と決算カードを分析しました。その結果、どの自治体にも共通して見られたのは、下水道事業の経営の厳しさでした。赤字が慢性化し、補助金や一般会計の繰り入れが常態化した結果、財政の柔軟性が失われ、やがて再建が困難な状況に追い込まれていったのです。
この構図は、特殊なケースではありません。今後、人口減少が進み、更新投資が本格化する中で、下水道事業の赤字体質がより深刻化することは避けられません。水道事業と異なり、下水道は処理場や管路の維持に多額の固定費がかかります。それをカバーするだけの使用料収入が得られなければ、結果的に自治体の財政に依存せざるを得なくなります。
しかも、下水道事業は見えにくく、市民の関心も薄い傾向があります。そのため、実態の深刻さがなかなか共有されず、抜本的な改革が先送りにされてきました。しかし、もはや限界は近づいています。このまま手を打たなければ、複数の自治体で下水道事業の破綻が連鎖的に起こる可能性もあるのです。
下水道の経営破綻は、市民生活の基盤を揺るがし、地域全体の持続性にも影響を与えます。いまこそ、全国の自治体と国が一体となって、現状を直視し、早急な対応に乗り出す必要があります。
※橋本淳司著『あなたの街の上下水道が危ない!』(扶桑社)より一部を抜粋して再構成。
(第2回に続く)
【プロフィール】
橋本淳司(はしもと・じゅんじ)/水ジャーナリスト。アクアスフィア・水教育研究所代表、武蔵野大学工学部サステナビリティ学科。専門は水資源問題、特に日本における水道事業とその民営化問題について精通している。これまでに多数の書籍を執筆し、新聞やテレビ番組においても水問題の専門家としての見解を発信。地球温暖化や人口減少に伴う水資源の危機に警鐘を鳴らし、さまざまなメディアでの発信や全国での講演活動を行っている。