*11:07JST 極東貿易 Research Memo(7):中計4期目のポイントは、「M&A戦略の実行」と「成長戦略への事業投資」(1)
■極東貿易<8093>の中期経営計画と成長戦略
3. 中期経営計画4期目の実行成果
(1) M&A戦略とその実行
M&Aは、同社のグループ経営を象徴する手法である。2008年の経営危機から脱出するため、同社は大きく舵を切り、中核事業の1つである航空・防衛関連の大半を失った事業構造の再構築に取り組んだ。その際、新たな事業をM&Aにより取り込むことで再建を図った。その後、2018年までに6件のM&A(7年間)を連続して実施し、これらの案件はいずれも全社平均を上回る売上総利益率を達成した。これにより、持続的成長と高収益体質への事業構造転換を果たした。このような成功体験が積み重なった結果、同社ではM&Aが重要な成長戦略となり、中期経営計画でもM&Aの成長投資枠(50億円)が設定されており、望ましいM&A案件が見つかればすぐに対応できる体制を整えてきた。2018年以降、M&Aは行わなかったが、検討は水面下で続けられ、2024年下期に2つのM&A契約が成立した。
1) 三幸商会の株式取得(子会社化)
三幸商会は、汎用プラスチック・エンジニアリングプラスチック及び溶射材※を取り扱う専門商社であり、自動車部品・電化製品から半導体関連に至るまで、幅広い産業分野の樹脂材料のサプライチェーンに貢献している。また、海外進出した顧客の事業を支えるため、中国・東南アジア地域に拠点を設け、幅広く材料供給事業を展開している。今回のグループインにより、同社の産業素材関連部門との間で販売の相互乗り入れが期待される。具体的には、三幸商会の強みである溶射材を産業素材関連部門の得意先に展開する一方、産業素材関連部門や機械部品関連部門の商材を三幸商会の取引先へ展開する準備を進めている。この統合を通じて、汎用プラスチック・エンジニアリングプラスチック事業という大きな事業の柱が確立され、ビジネス展開上、大きなメリットとなる。
※ 溶射材とは、産業界で広く利用されている溶射と呼ばれる表面改質技術において使用する金属やセラミックス、サーメットなどの材料を指す。
2) 船舶用補修材:ウエルストンの株式取得(孫会社化)
同社の機械部品関連部門の基幹子会社であるヱトーは、産業向け精密ファスナー及び関連機械器具工具の販売を中心とした専門商社として、国内外の顧客を強力にサポートするため、培った経験をもとに品質保証や技術的ノウハウ、サプライチェーンを進化させ、中国・アセアン地区・北米地域に広く海外事業を展開している。一方、ウエルストンは、船舶用駆動系(エンジンやコンプレッサー)日系メーカーの補修部品の輸出や国内卸を主体とする専門商社で、幅広い仕入先と東南アジアを中心とした海外の顧客を数多く保有しており、近年拡大を続ける船舶のメンテナンス需要を取り込み、グローバルな事業展開を進めている(直近4年間で売上高2.6倍増)。ヱトーはウエルストンを子会社化することにより、船舶用エンジンなどの補修部品という新たな市場に参入し、商材の開拓機会を創出することで収益基盤強化を図る。また、ウエルストンはヱトーが有する資金力や多岐にわたる取引先、商品管理ノウハウ(例えば在庫管理など)を活用することにより顧客対応力を強化し、ヱトー並びに同社グループのネットワークを生かしながら、船舶補修部品市場における優位性を築き、事業多角化を図ることができる。ヱトーとウエルストンは、業界や取引先は異なるものの、取扱商材(ロット・サイズが近い、金属切削部品)や商流に類似性があるため、中長期的視点から事業シナジーが大いに期待できる。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 清水 啓司)
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