*18:59JST ガイアックス:SNS支援の安定収益を土台にスタートアップ投資も展開
ガイアックス<3775>は、ソーシャルメディアの運用・マーケティング支援を安定収益基盤としながら、起業支援や投資育成、新規事業創出を並行して進める「スタートアップスタジオ型」の企業である。一般にはSNSマーケティング会社として見られやすいが、実態としてはSNS支援で稼いだ利益や投資先売却益を次の事業や投資へ再配分し、事業ポートフォリオを入れ替えながら成長機会を取り込むモデルとなっている。足元では、ソーシャルメディアサービス事業を収益の土台に据えつつ、ショートドラマ、HR、web3/DAOといった新領域への先行投資を強めている。
同社の事業は大きく、ソーシャルメディアサービス事業とインキュベーション事業に分かれる。前者は、SNS戦略設計、運用代行、広告、クリエイティブ、インフルエンサー施策、リサーチなどを横断的に提供するもので、1,500社以上の支援実績を持つ。単なる投稿代行ではなく、戦略と制作の両方を押さえた統合型支援に強みがあり、子会社CREAVEとの連携を通じてショート動画や縦型コンテンツ制作力も補完している。後者のインキュベーション事業は、スタートアップ育成5か年計画で増加する全国の自治体の起業家輩出支援、web3/DAOコンサルティングを中心に提供している。起業家教育、自治体向けスタートアップ支援、投資育成、シェアリングエコノミー関連、web3/DAO支援などを含み、受託収益と投資リターンの両方を取り込む構造となっている。
競争優位の源泉は、第一に、長年のSNSマーケティング支援で蓄積してきた知見と顧客基盤にある。ガイアックスはクライアントの課題に応じて媒体選定から運用、内製化支援、クリエイティブまで一気通貫で支援する体制を持ち、ナショナルクライアントを含む支援実績を積み重ねてきた。第二に、CREAVEが持つ35万人超のクリエイターネットワークやショート動画制作ノウハウを活用できる点がある。これにより、戦略設計に強いガイアックスと、企画・制作に強いCREAVEが相互補完し、SNS支援からショートドラマ制作まで横展開できる体制を構築している。第三に、起業支援や投資の領域では、単なる資金提供ではなく、教育、伴走支援、卒業生ネットワーク、政策トレンドへのアクセスまで含めたエコシステムを持つ点が差別化要因となる。独自のビジネスモデルやカルチャーによる社内からの起業家輩出支援と、社外起業家への投資・事業支援を通じ、社会を変える新たな事業を次々と生み出し続けている。
足元の業績について、2025年12月期は売上高3,498百万円(前期比3.8%増)、営業利益254百万円(同31.2%減)で着地した。企業のSNSマーケティング支援が第4四半期も引き続き堅調に推移し、既存顧客による大型キャンペーンの受注やSNS運用代行におけるアップセルが売上の伸長を牽引した一方で、注力するショートドラマの初期制作費や新規事業開発等の先行投資が利益を押し下げた。とりわけショートドラマやHR領域は立ち上げフェーズにあり、専門人材の採用、営業・マーケティング、運用体制の整備など初期コストが先行しやすい。一方、会社側は売上拡大に伴ってこれらの先行投資が順次回収され、利益も改善していく前提を示している。2026年12月は売上高3,300百万円(前期比5.7%減)、営業利益250百万円(同1.9%減)を見込んでいる。
市場環境をみると、SNSマーケティング市場そのものは引き続き拡大余地が大きい。企業のマーケティング予算がテレビや紙中心からSNS、縦型動画、インフルエンサー施策へ移る流れは継続しており、同社の既存主力事業には追い風となる。さらに注目されるのがショートドラマ市場で、同社資料では国内市場が2026年に1,500億円へ成長するとの見方を示している。ガイアックスはこの市場の立ち上がりを捉え、制作受託にとどまらず自社IPの育成に踏み込んでいる。子会社CREAVEが手掛けるショートドラマアカウント「本気出すのは明日から。」は総再生回数4億回を突破しており、ショートドラマ市場への本格参入を進めている。
今後の成長見通しについては、ショートドラマとHRが最大の注目点となる。IRサイトのQ&Aでは、2026年営業利益予想2.5億円と2027年目標6億円の差について、ショートドラマ部門とHR領域を中心に2025年から2026年にかけて積極投資を行い、2027年に回収期へ移行する計画と説明している。ショートドラマは、単発販売やプラットフォーム販売よりも、IPを構築して継続的に利益を生むモデルが最もパフォーマンスが良かったとしており、第2、第3の成功IP創出が重要テーマになる。HR領域では、2025年にMatkaを子会社化し、キャリア自律と組織変革を支援するHRコンサルティングに、ガイアックスの事業家人材やエンジニアリソースを掛け合わせてAI活用型HRプロダクトの開発を進めている。既存のSNS支援に加え、ショートドラマIPとHRプロダクトが立ち上がれば、同社は受託型企業から事業投資型企業へ一段と色彩を強めていく可能性がある。
そのほか、web3/DAOや投資先ポートフォリオも同社を語る上で無視できない。これまで、投資先の卒業生の創業企業から2社(ピクスタ、Photosynth)が、カーブアウト企業から2社(AppBank、アディッシュ)が株式公開。今後、「時価総額数百億円×持分比率10~30%」を目指している。これまでの投資先ではTRUSTDOCK、PIXTA、Photosynth、タイミー、ADDress、ストアカ、Unito、エニキャリなど、知名度の高い企業が並んでおり、同社の投資・起業家ネットワークの厚みを示している。ただし、これらの価値は毎期安定的にPLへ反映されるわけではなく、投資先売却益の有無によって業績の見え方がぶれやすい点には留意が必要だろう。安定収益事業と投資事業が混在する企業だけに、単年度利益だけで評価すると実態を見誤りやすい。株主還元は、継続的な配当を目指す方針を掲げており、2025年12月期の期末配当予定は5円、2026年12月期も5円を予定している。
総じて、ソーシャルメディア支援という安定収益事業を土台にしながら、ショートドラマIP、HR、web3/DAO、投資育成といった複数の成長オプションを重ねることで、非連続な企業価値の拡大を狙う構図にある。スタートアップ育成トレンドを背景に、自治体や民間企業からの案件受注も継続している。足元は先行投資負担が利益面の重しとなる局面だが、2027年営業利益6億円の達成に向けてショートドラマとHRの収益化が進めば、同社は「受託型マーケティング企業」ではなく、「事業創出力を持つスタートアップスタジオ」として評価を切り上げていく余地がありそうだ。PBR1倍割れ水準にとどまるのであれば、なおさら今後の事業化進捗とIRの見せ方が株価評価のカギを握ろう。
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