いま企業には、65歳を過ぎた労働者に対して就業機会を確保することの「努力義務」が課せられている。国は「65歳定年制」の義務化とともに、70歳まで雇用することを推進しているのだ。この「働く年齢の引き上げ」と「年金受給開始年齢の引き上げ」は密接に関係がある。要は、国が年金を払えなくなってきたから、企業に国民の食い扶持を守るよう責任を押し付けているのだ。「年金博士」こと社会保険労務士の北村庄吾氏が解説する。
* * *
近い将来、年金受給開始年齢がさらに引き上げられることが予想されます。2031年には完全に「65歳」受給開始へと移行しますが、日本と同じく少子高齢化が進む先進各国の傾向から、日本でも今後さらに受給開始年齢は引き上げられ、ゆくゆくは「70歳」開始となるのではないでしょうか。
昭和17年(1942年)、年金制度が発足した当時は「55歳」受給開始でした。昭和19年の改正で女性も年金がもらえるようなりましたが、同じく「55歳」受給開始でした。そのころ(昭和22年=1947年)の平均寿命は男性50.06歳、女性53.96歳というデータがあります。まだ平均寿命が短く、受給開始年齢より前に亡くなる方が多かったのがわかります。
その後、変遷を経て、昭和61年(1986年)には女性の受給開始年齢が55歳から「60歳」に引き上げられ、60歳から64歳の年金は「特別支給の老齢厚生年金」、65歳以降の年金が「老齢基礎年金」「老齢厚生年金」と位置づけられる大きな改正がありました。
当時の平均寿命を見ると男性66.03歳、女性70.79歳となっています。同年、「60歳定年」の努力義務化が規定されます。年金の受給開始年齢が男女ともに60歳となるので、定年も55歳から60歳へと引き上げたのです。
年金の受給開始年齢が65歳へと段階的に引き上げられる改正が行なわれた平成6年(1994年)には、改正高年齢者雇用安定法により60歳未満の定年が原則禁止と定められ、「60歳定年」制度が完成しました。