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【学力は遺伝か、努力か?】一卵性双生児で“最も成績で差がつくのは数学”というデータは、何を意味するか

「努力する遺伝子」はあるのか

 さて、前回の記事では、“ひろゆき”こと西村博之さんの〈最近の研究だと「勉強を努力出来る才能」も遺伝という説が強いです〉というTwitterへの投稿を紹介した。

 なぜ、西村さんはこうツイートをしたのか。評論家の岡田斗司夫さんがYouTubeの中で「努力する力が遺伝をする」という論文を紹介したからだ。その論文は、ミシガン州立大学とテキサス大学の合同研究で、一卵性の双生児850組をまったく違う収入層の家庭に分け、異なる環境で、クラシック楽器の練習の努力比較をしたところ、差は少なかったというものだ。つまり、一卵性の双生児は違う環境にいても練習量に差がなかったわけだ。なぜ、クラシック楽器の練習をさせたのかというと、日々の努力ができるかの判別に適していると判断したからだそうだ。

 この楽器の練習で“努力遺伝子”なるものの存在を推測するのには、違和感を持つ人もいよう。東大附属中学の双生児研究でも一卵性双生児で成績にあまり差が出ないのは音楽である。学校教育レベルの音楽の成績は、努力よりも先天的なもので決まると思う人もいるかもしれないが、それでも、努力の影響も多少入ってくるはずだ。音楽に才能があれば、楽器の練習は楽しくなり、積極的に練習をして実技試験で高い点数を取るだけではなく、吹奏楽部などに入ってさらに練習を重ねようと思うだろう。

 音楽は基本的に高校受験や大学受験に強くは結びつかないものなので、努力をするのは「得意なことで好きだから」が理由になってくる。その「得意」は遺伝するというデータがあり、結果、その「得意」を共に受けついでいる一卵性の双生児は共に練習に対して積極的になると考えられる。

 一方、数学は、一卵性双生児でも成績に大きく差が出る。数学が得意だから勉強をする人もいようが、大半の数学の勉強へのモチベーションは「受験主要科目だから」だろう。学習塾を取材していると、数学が苦手な生徒たちがつらそうな顔をしながら勉強をしている。嫌いでも数学は勉強をしないといけないわけだが、それを頑張れるか否かは、一卵性でも差が出るというわけだ。

 こう考えていくと、楽器の練習だけで努力遺伝子の存在を推測することは難しいように思えてならない。

 安藤教授の近著『能力はどのように遺伝をするのか』(講談社)の中でも、「努力をできる能力は遺伝するか」ということに関しては、読者それぞれの「個人の判断」としている。つまり、まだ、研究では解明されてないということなのだろう。「努力遺伝子」も興味深いテーマなので、今後の研究が期待される。

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