森口亮「まるわかり市況分析」

株価急上昇の直前まで下落サインが頻出 テクニカル分析を覆すファンダメンタルズ要因に「投資家が乗り遅れるのは当たり前」

急騰前のトレンドの状態は?

 今回は、市場全体の動向を把握するためにアメリカの主要な株価指数であるS&P500を例にとり、最近の株価トレンドの状況を見ていきます。

 2023年7月27日に記録した高値から、S&P500は「高値更新なく安値を更新する」という短期下降トレンドに入り、最近の安値は10月27日につけています。

 この3ヶ月に及んだ短期下降トレンドにおいて、高値からの下落率は▲10.92%に達し、市場の調整局面への入り口にいるかもしれないとの懸念もありました。

 トレンドの状態は、13週だけでなく26週の移動平均線がわずかに下向きに転換し、デッドクロス(短期線が長期線を上から下に突き抜ける現象)が発生寸前の段階でした。さらに、最長期の52週移動平均線ですら株価のサポートとはならず、株価はそのラインを割り込んで下落していました。

 週足チャートは中長期のトレンドを写し出すため、日々の変動を捉える日足チャートに比べてサインは少ないですが、逆にそのサインは信頼性が高い(ダマシが少ない)ことを意味します。急騰が起こる直前の週まで市場は引き続き下落しており、週足チャート上の複数のネガティブなサインが、さらなる下落の兆しを示していたのです。

株価が中長期的な抵抗を超えた理由

 次に株価が上昇した理由を探ります。10月30日を皮切りに週間で5.85%も株価が上昇しました。この上昇により、先に下向きに転換していた26週移動平均線は上向きに転じ、株価は13週および52週移動平均線の位置を上回りました。

 先ほど週足チャートはダマシが少ないと説明しましたが、この1週間の株価変動は例外的で、中期的な方向性や抵抗の目安を超えていくダマシが多発していました。このダマシにより、この週の上昇を正確に予測することが、いかに難しかったかは容易に理解できます。

 では、なぜ株価は急に上昇を始めたのでしょうか? その答えは、テクニカル分析を超えたファンダメンタルズ要因にあります。

 具体例としては、FOMC(連邦公開市場委員会)の会合で金利が据え置かれる決定が出されたことに加え、市場予想よりも低かった雇用統計の結果が「利上げサイクルの終了」への期待を高めたことが大きく影響したのです。

 これまでFOMCや雇用統計の結果は市場の主なリスク要因と意識されていたため、今回はポジティブな転換点として、株価の大幅な上昇につながりました。さらに、UAW(自動車労働組合)によるストライキ終了といった複数のポジティブな材料が重なり、市場心理が急激に改善しました。これらが、株価の急上昇を引き起こしたと考えられます。

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