せめて夫だけでも繰り上げるべき
定年後、もっともお金がかかるのは60代。夫婦ともに元気で、特に娯楽や趣味にかけるお金は現役時代より増えるともいわれている。
一方、体の自由がきかなくなる後期高齢者(75才以上)になると、娯楽や趣味にかけるお金は60代の半額以下になるため、70才を過ぎてから多くの年金を受け取っても、“トクした感”は得られないといえる。
「10年近くも“今がまんすれば年金が増えるから”と倹約を重ねていても、お金が入る頃にはボケているかもしれないし、最悪亡くなっているかもしれません」
繰り下げ受給を選択し、受給開始前に亡くなってしまった場合、65才から亡くなった年齢までの年金は「未支給年金」として遺族が受け取ることができる。しかし、繰り下げを選択することによる「加算分」は消滅する。
「いずれにしろ、男性の方が平均寿命も健康寿命も短いので、夫婦で考えた時には、夫の分だけは繰り上げて、比較的健康寿命の長い妻の分は繰り下げるという選択肢もあると思います。何より繰り下げ受給は、“絶対に健康で長生きする自信があって、生活にも余裕がある、ごく一部の恵まれた人たち”の選択肢といえるでしょう」
デメリットはまだある。
「年金額が増えると、税金や社会保険料が多く天引きされて手取り金額が少なくなってしまう場合があります。自治体によって異なりますが、たとえば東京23区などの大都市では、公的年金だけで暮らしている人の場合、年金収入が年211万円(月額約17万6000円)を超えると、健康保険料や介護保険料などの社会保険料が上がり、医療費の自己負担分を減らす『高額療養費制度』の自己負担上限額も引き上げられます」