今年の春先にはChatGPTが大きな注目を集めたが、ひょっとしたらそれ以上のインパクトをグローバル社会に与えるかもしれない、と期待される科学上の研究発表があった。……だが、その真偽をめぐって、株式市場では一喜一憂が続いている。
韓国の量子エネルギー研究所の研究チームは7月22日、科学技術関連の論文を自由投稿するサイト「アーカイブ(arXiv)」において、「世界で初となる常温常圧下における超伝導体の生成に成功した」とする2編の論文を投稿した。
この超伝導体は、研究の中心となった2人の研究者名の頭文字、発表した年などをなぞらえて、「LK-99」と名付けられた。硫酸鉛とリン化銅を高温で加熱して生成される六方晶構造をした物質で、摂氏127℃以下で超伝導性を示したそうだ。
超伝導材料は現在、エネルギー、医療、情報、精密機器、交通などの領域で実用化されているが、そのほとんどがマイナス200℃程度以下の超低温・あるいは高圧環境下でしか、その超伝導性を出現させないといった弱点がある。冷却のために必要となる装置が高価で、エネルギー消費が大きく、利用できる分野は限られる。
これがもし冷却の必要がなくなれば、装置が安全、かつ格段に安くなるほか、電力(送配電)や、モーターを利用する機械製品からパソコン、スマホに至るまで、幅広い領域での利用が可能となるだろう。
中国本土株式市場では、この発表が材料視され、関連銘柄が急騰している。中国科学院が進めている高温超伝導関連の研究プロジェクトに開発のための装置を提供しているアルミメーカーの河南中孚実業や、鉛精鉱、電気分解による鉛の再生などを手掛ける河南豫光金鉛、そのほか天津百利特精電気、江蘇永鼎といった関連銘柄が、7月最終週から8月7日にかけて、断続的にストップ高を付けている。
こうした株価の急騰は、米国、韓国市場でも見られる。日本では、実用化されれば鉛の消費量が増えるとの見通しや、鉛電池に対する需要が大きく需給が現在、均衡しており、ちょっとした需要増が大幅な価格上昇につながるかもしれないといった思惑から、オーストラリアで2つの亜鉛、鉛、金を含む鉱石を産出する鉱山を関連会社として持つ東邦亜鉛(5707)あたりが買われた。