田代尚機のチャイナ・リサーチ

【株式市場は一喜一憂】韓国研究チームが発表した常温超伝導材料「LK-99」 株価急落が物語る評価レベルの現状

世界各国で行なわれる検証実験

 ただし、このグローバル市場で広がった熱狂も、中国を除けば、足元ではすでに冷め始めている。各国、各銘柄で値動きに差があるが、NASDAQ市場に上場する米国の発電タービンメーカーであるアメリカン・スーパーコンダクターを一例として示しておくと、7月25日の終値は7.03ドルであったがそこから株価は上昇し始め、一週間後の8月1日には終値で16.13ドルまで急騰した。しかし、2日は29%安の11.46ドルまで下げておりその後、値動きは落ち着きを取り戻してきたものの、7日の終値は10.05ドルまで下げている。

 ちなみに、株価急変の要因を示しておくと、常温での超伝導材料が実用化された場合、同社が手掛ける送配電ビジネスにおいて、熱損失ゼロの革命的な配送電システムが出現し、膨大な更新需要が生じるとの思惑が材料視されたのだとみられる。

 グローバルで起きた関連面柄の急騰は言うまでもなく、実用化された時の経済に与えるインパクトの大きさに期待してのものであるが、その後の急落の要因は“この研究発表は、信憑性に欠けるのではないか”といった懸念だ。

 現在も中国をはじめ、世界各国で検証実験が行われているが、いまのところ肯定的な情報よりも、否定的な情報の方が多いようだ。そもそも、論文自体が査読前の状態であり、その一部で不備、間違い、不確実な記述があるといった専門家たちからの指摘がある。彼らによるさらに正確な追試の結果を待つ必要があるが、現時点では足元の株価急落がその評価レベルの現状を物語っているといえよう。

 超伝導材料に関しては度々、発見のニュースが世間の注目を集めている。2023年3月には、米国ロチェスター大学のディアス博士率いる研究グループが科学雑誌ネイチャーで、高圧下ではあるが21℃で超伝導現象を示す「窒素含有の水素化ルテチウム」という物質の生成に成功したとする論文を発表している。理論学者たちはどちらかというと否定的な見解を示しているようだが、6月、イリノイ大学の研究グループがarXivにおいて、追試に成功したと報告している。

 日本の株式市場ではバブルの頃からすでに、超伝導、リニア関連が材料視されており、関連銘柄が度々、株式市場を賑わせてきた。テーマの歴史の古さが超伝導材料の世界に与える影響の大きさを雄弁に物語っている。今のところ、LK-99への期待は萎んでしまってはいるが、まだいろいろな機関で追試が行われており、7日には新たなLK-99に関する映像が公開され、中国本土市場では再び関連銘柄が大きく買われ直している。投資家にとって、超伝導に関するニュースへの関心が高いのは間違いないだろう。

文■田代尚機(たしろ・なおき):1958年生まれ。大和総研で北京駐在アナリストとして活躍後、内藤証券中国部長に。現在は中国株ビジネスのコンサルティングなどを行うフリーランスとして活動。ブログ「中国株なら俺に聞け!!」も発信中。

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