「自分でケリをつけるしかないと思いました」
小倉さんは「この事件は機密保持指定されました。誰かに話したら処罰の対象になります。家族にも話してはいけません」と念を押された。
「さらに、『この件は多くの闇の組織や人間が関わっています。暴力団など非常に危険な人間も多く、どこからそれにつながるかわかりません』と警告された。そんなことを言われたら家族には絶対に言えません。自分でケリをつけるしかないと思いました」(小倉さん)
孤立させられ、身動きを封じられるやりとりが続いたのち、「今から取り調べを行う」とLINEに誘導される。犯人グループはLINEを通じて偽の逮捕状や偽の警察手帳などを提示し、逮捕が迫っているほど深刻な事態であることを実感させるのだ。
「取り調べの中で最も“これはガチだな”と思ったのは、僕の名前が入った逮捕状の画像を見せられた時です。こんなところまで話が進んでいるのかと思いました。あれで猜疑心は完全になくなりました」(小倉さん)
「逮捕される」という不安を極限まで煽った上で、「身の潔白を証明するために、紙幣番号を調べる必要があります。つきましては〇〇に送金してください」などと“救いの手”を差し伸べるのが犯人グループの常套手段である。小倉さんはこの口車に乗って、ネットバンキングだけでなくゆうちょ銀行のATMでも送金して計200万円を騙し取られた。
「もちろん、警察がATMで振り込みをさせることはないと、頭の中に入っていました」と小倉さんが振り返る。
「それでも、入金に至るまでのやり取りで心理的に追い込まれていたんです。加えて、大きな事件で機密指定されているのだから警察の中でも特殊な扱いなのだろうと思い込み、相手の言うことに従ってしまった。今思えば、完全に入り込んでいました」(小倉さん)